【ベトナム進出/移住】説で終わらないハノイ都市計画の本気”説”
はじめに
最近、ハノイの都市計画に関するニュースを目にする機会が急増しています。
2026年5月、ハノイ人民委員会は「100年先」を見据えた新たな都市マスタープランを正式承認しました。
そこでは、紅河(ホン川)を都市の主軸とする再開発、多極型都市への転換、1,000km超規模の都市鉄道網、第二空港構想、TOD(公共交通指向型開発)など、これまでにない大規模な都市再編構想が示されています。
- 参照:HANOI PORTAL
さらに現在、ハノイでは、
- 環状道路4・4.5・5の整備
- 紅河沿岸エリアの再編
- 数千件規模の土地回収案件
- 新たな橋梁・幹線道路計画
- 地下鉄沿線を中心としたTOD開発
など、これまで「計画止まり」と言われてきた案件が、実際に動き始めています。
日本人生活圏にも影響
そして今、その影響は少しずつ日本人生活圏にも及び始めています。
これまで遠い都市政策と思われていたことが、ファンケビン周辺の道路拡張計画などを通じて、現実の店舗・不動産・生活圏の問題として見え始めているのです。
もちろん、ベトナムの都市計画には長年、「どうせ実現しない」という空気がありました。
というのも、これまでは計画だけが存在し、補償問題や予算不足によって、10年以上放置されるケースも少なくなかったためです。
しかし今、ハノイでは少しずつこの前提が変わり始めています。
これは、「とりあえず建てる」「どうせ動かない」が通用しにくくなっていることを意味します。
本記事では、最近話題となっている都市計画関連の情報を整理しつつ、今ハノイで何が起きているのかを、現地目線で整理していきます。
「ハノイ100年マスタープラン」とは何か
多極型都市構造化
2026年5月13日、ハノイ人民委員会は「100年先」を見据えた新たな都市マスタープランを正式承認しました。
決定番号は「2512/QĐ-UBND」です。
計画対象面積は、約3,360km²と非常に大規模な計画です。
本案では、ハノイを単なる行政都市ではなく、次のように転換していくことが掲げられています。
- アジア太平洋地域のイノベーション拠点
- 国際競争力を持つグローバル都市
- グリーン・スマートシティ
今回の計画で特徴的なのが、「多中心・多極型都市構造」への転換です。
実際、本構想の背景には、2022年に党中央政治局が発行した「Nghi quyet 15-NQ/TW(ハノイ首都発展に関する政治決議)」があります。
これまでのハノイは、旧市街や中心部へ機能が集中する構造でした。
しかし今後は、
- Nội Bài空港を中心とした北部空港・物流圏
- Hòa Lạcを中心とした西部科学技術都市
- Phú Xuyên方面の南部工業・第二空港圏
- Sơn Tây・Ba Vì方面の文化・観光圏
- Gia Lâm・Long Biên方面の東部物流圏
など、都市機能を複数の成長極へ分散・再編していく方針が示されています。
基軸となる紅河
その中でも、本計画の象徴的存在となっているのが「紅河(Sông Hồng)」です。
計画では、紅河を「都市の主要な生態・文化・景観軸」として位置づけています。
これは単なる河川整備ではありません。
紅河沿岸エリアを、今後のハノイにおける
- 景観形成
- 都市インフラ
- 新規開発
- 交通接続
- 公共空間
の中心軸として再編していく、という意味合いを持っています。
実際、紅河沿いではすでに、大規模景観道路構想や再開発計画も進み始めています。
つまり、今回の100年マスタープランは、「ハノイの都市構造そのものを組み替える計画」として見る必要があります。
なお、ハノイ都市改革の全体像については、『【現地情報】ベトナムで静かに進むハノイ都市改革と国家再設計』で解説しています。
背景にある「2045年国家目標」
この100年計画は、ハノイ単独で暴走している話ではありません。
背景には、ベトナム国家全体の「2045年 高所得国化」という長期国家戦略があります。
2045年は、ベトナム民主共和国建国100周年です。
ベトナム政府はそこへ向けて、
- インフラ
- 地下鉄
- 空港
- 港湾
- スマートシティ
- 物流
- デジタル経済
を国家レベルで一気に引き上げようとしています。
実際、ハノイ〜クアンニン高速鉄道構想など、北部経済圏全体を接続する広域インフラ計画も進められています。
なお、北部経済圏に関しては、『【ベトナム進出/移住】”Vingroup” が仕掛ける北部都市設計の正体』にて解説しています。
つまり、ハノイは「首都として国家発展を牽引する中核都市」として位置づけられている状態です。
だからこそ、
- 地下鉄網拡張
- 環状道路
- 第二空港
- TOD
- 紅河再編
などが、単発の行政計画ではなく、国家戦略と首都特例政策の両方として、実際に動き始めているわけです。
これまでのハノイとは違う
「どうせ実現しない」が変わり始めている
ハノイでは、都市構造そのものを組み替えるような計画が次々と打ち出されています。
そして今、それらは「将来構想」の段階を超え、実際の行政執行フェーズへ入り始めています。
最近話題となっている「土地回収計画」も、その一つです。
現在ハノイでは、
- 環状道路4・5の整備
- 地下鉄沿線を中心としたTOD開発
- 紅河景観軸の再編
- 都市再区画整理
- 幹線道路拡張
など、多数の大型案件が同時進行しています。
SNS上では、
「ハノイが5万haを接収する」
というかなり強い表現も見かけます。
実際、数字の捉え方には幅がありますし、今後変更される可能性もあります。
ただ少なくとも、
「数万ha規模で都市構造を再編しようとしている」
という理解自体は、そこまで誇張ではありません。
これまでのハノイは、中心部への過密集中、慢性的な交通渋滞、インフラ不足、無秩序な市街地拡大といった問題を長年抱えてきました。
今回の一連の計画は、それらを部分的に修正するものではない点が特徴と言えます。
なぜ今まで「実現しない」と言われてきたのか
ただ、ベトナム在住者や不動産関係者ほど、こう感じるかもしれません。
「とはいえ、どうせ実現しないのでは?」
実際、その感覚には一定の現実味がありました。
これまでのベトナムでは、
- 都市計画だけ存在する
- 予算が付かない
- 補償問題で止まる
- 住民調整が進まない
- 数十年単位で放置される
というケースが珍しくなかったからです。
つまり、「都市計画線は引かれているが、永遠に工事が始まらない」という状況が、大量に存在していました。
そのため、不動産関係者や地主からも、
「Quy hoạch(都市計画)は気にしなくていい。どうせ動かないから。」
と言われることが少なくありませんでした。
実際、それが“半分正しかった”時代も長かったと思います。
今回は何が違うのか
しかし今、ハノイでは少しずつ状況が変わり始めています。
今回の変化で重要なのは、「実行するための制度や資金設計」まで含めて動き始めていることです。
今回のマスタープランや関連政策では、
- PPP(官民連携)
- TOD(公共交通指向型開発)
- 土地価値増分回収
- 都市債
- 首都特例制度
など、実行を前提とした制度設計や資金調達の方向性が示されています。
つまり、「計画だけ作る段階」から、「実際に実行する段階」へ移行し始めているのです。
また、今回の計画では、既存案件についても新たな都市計画との整合性確認が進められる方向性が示されています。
関連報道では、
「違反を合法化しない(không hợp thức hóa các sai phạm)」
という方針も強調されており、今後は違法増築やグレー建築への対応が、より厳しくなる可能性があります。
もちろん、現時点で全てが計画通り進むとは限りません。
ただ少なくとも、「どうせ実現しない」を前提に判断する時代ではなくなり始めています。
参照:Dau tu Online – Ha Noi phe duyet Quy hoach tong the Thu do tam nhin 100 nam
日本人街でも、現実に影響が始まっている
そして、この話は決して「遠い都市政策」ではありません。
その影響は少しずつ、ハノイの日本人生活圏にも及び始めています。
最近特に話題となっているのが、ファンケビン(Phan Ke Binh)周辺の道路拡張計画です。
以前から都市計画自体は存在していました。
ですが、ここへ来て実行フェーズへ入る可能性が現実味を帯び始めました。
もし計画通り進めば、沿道の店舗や建物の多くに影響が及ぶ可能性があります。
実際、人気の高かった「Pizza 4P’s Phan Ke Binh」は、2026年6月15日をもって閉業することが発表されました。

もちろん、閉業理由の詳細がすべて公表されているわけではありません。
ただ、現地では、「ついに本当に動き始めたのではないか」という空気感が一気に強まった印象があります。
(個人的には、比較的早い段階で撤退判断を行った点は、非常に合理的な意思決定に見えました。)
このエリアには、日本食レストラン、サービスアパート、オフィス、バー、小売店舗など、日本人生活圏に深く関わる施設が数多く集積しています。
つまり今起きているのは、都市政策が実際の生活圏まで降りてきたということです。
そしてこれは、不動産だけの話ではありません。
今後は、
- 出店判断
- 契約期間
- 建築投資
- 改装投資
- エリア選定
など、ベトナム進出の判断にも、都市計画を前提として考える必要が出始めているのかもしれません。
ベトナム進出で、本当に見るべきもの
これまで多くの人は、「家賃・人通り・立地・内装・周辺競合」を中心に物件を見ていました。
もちろんそれも重要です。
ただ、これからはそれだけでは足りなくなる可能性があります。
「都市計画」も見るべきポイントです。
例えば、
- 土地用途
- 将来道路計画
- 接収予定
- 景観軸
- TOD対象
- 河川計画
といった、都市側の論理のことです。
特に変化の多いベトナムでは、「今そこに建っている」ことと「将来もそこに存在できる」ことが、必ずしも一致しません。
ここは、日本よりもはるかに重要な視点です。
おわりに
今回のハノイ100年マスタープランは、もちろん理想も多く含んでいます。
ただ、それでも重要なのは、「行政が本気モードへ入り始めた」という事実です。
そして、その変化はすでに、
- 不動産
- 建築
- 出店
- インフラ
- 日本人生活圏
など、現実の意思決定へ影響を与え始めています。
今ハノイで起きているのは、単なる再開発ではありません。
都市そのものが、次のフェーズへ移行し始めている。
今回の一連の動きは、その入口なのかもしれません。
MISSION.Hでは、ハノイ現地から、起きている事象を単発ニュースとしてではなく、「なぜそれが起きているのか」という構造全体から読み解く記事も発信しています。
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