【ベトナム進出/移住】日本企業が進出先にベトナムを選ぶ理由
はじめに
近年、日本企業の海外展開において、ベトナムの存在感は確実に高まっています。
一部では「日本企業の進出先として世界上位」と語られることもあります。
ですが、実際の統計を見ると、より重要なのは“数”よりも“成長性と拡大意欲”です。
本記事では、公的データをもとに、マクロ経済視点からベトナム進出の合理性を整理します。
日系企業のベトナム進出数は約2,000〜2,500社規模
ベトナムに進出している日本企業数については、複数の公的・準公的データが存在しており、定義や調査手法の違いから単一の確定値を示すことは難しいのが実情です。ただし、主要統計を整理すると、おおよその規模感は明確に把握できます。
まず、日本国・外務省の海外進出日系企業拠点数調査(2024年時点)では、ベトナムの拠点数は2,543拠点と報告されています。一方、JETROの見解を引用した Hanoi Times の報道では、ベトナムには2,000社超の日系企業が投資しているとされています。
ここで留意すべきは、「拠点数」と「企業数」は必ずしも一致しない点です。加えて、
- 現地法人のみをカウントするか
- 駐在員事務所を含むか
- 合弁企業の扱い
- 最新進出・撤退のタイムラグ
といった統計上の差異が存在します。
これらを踏まえると、実務的な把握としては、ベトナムの日系企業規模は概ね2,000〜2,500社レンジと捉えるのが最も現実的です。
東南アジア域内で比較すると、タイ(約6,000社規模)には及ばないものの、ベトナムは依然として日系企業の主要集積地の一角を占めています。
特に近年は、単なる進出数の多寡以上に、「拡張投資の活発さ」や「新規参入の継続性」という観点で存在感を高めており、日本企業にとって確実に主戦場の一つである状況に変わりはありません。
拡大意欲はASEANでトップ水準
ベトナム市場を評価する上で、単純な進出企業数以上に注目すべき指標が「既存進出企業の拡張意欲」です。
この点において、ベトナムは ASEAN 域内でも際立った強さを示しています。
JETRO が実施した最新の海外進出日系企業調査によれば、ベトナムに進出している日系企業の約56〜57%が、今後1〜2年以内に事業拡大を予定していると回答しています。
(出典:theinvestor.vn – Japan firms in Vietnam most willing in Southeast Asia to expand operations: Jetro survey)
この数値は、域内平均を大きく上回っています。また、国別比較でもトップ水準の拡張マインドを示しています。
- ASEAN 平均:約46%
- ベトナム:約56〜57%
ここで重要なのは、この指標が単なる期待感ではないことです。つまり、すでに現地で事業を運営している企業の“実感値”であるということです。言い換えれば、ベトナム市場は新規参入の魅力度だけでなく、進出後の追加投資を意思決定させるだけの事業環境が維持されていることを意味します。
経営視点で見るこの数値の重要性
海外進出先を評価する際、多くの企業は進出企業数ランキングに注目しがちです。しかし、実務的な意思決定においてより本質的なのは、次の二軸です。
- 既存企業数(=過去の蓄積・市場の成熟度)
- 拡大意欲(=将来の成長期待・投資回収見込み)
前者は市場の“歴史”を示す指標です。一方、後者は現場で事業を行っている企業が、追加投資に値すると判断しているかどうかを示す、極めて実務的な KPI です。
その観点から見ると、ベトナムはASEANの中でも将来投資の継続性が最も期待されている市場の一つと言えます。進出済み企業の過半数が拡張を志向しているという事実は、同国の事業環境が依然として成長局面にあることを強く示唆しているわけです。
日本企業の黒字率も回復基調
ベトナム市場の実力を測るうえで、進出企業数や投資意欲と並び重要なのが、現地法人の収益動向です。この点においても、足元ではポジティブな変化が確認されています。
JETRO の2025年度 海外進出日系企業調査によれば、ベトナムに進出している日系企業の67.5%が黒字見込みと回答。これは、2009年以来16年ぶりの最高水準。
また、2025年における対ベトナム直接投資額において、日本は16億2000万ドル記録しており、前年から9.4%増加して第4位となっている点は注目に値します。
(出典:Poste – JETRO 調査引用)
もっとも、この数値の解釈には一定の注意が必要です。JETRO 調査は統計調査ではなく、現地進出企業へのアンケート回答を母数として算出されているため、
- 回答企業の構成
- 業種偏り
- 回答率の変動
などの影響を受け得ます。したがって、この67.5%という数字を市場全体の“厳密な黒字比率”として機械的に読み替えるのは適切ではありません。
それでも注目すべき理由
一方で、同一フレームの継続調査である以上、トレンド指標としての有効性は依然として高い点に注目すべきです。
実務的に重要なのは絶対値の精密さよりも、
- 既存進出企業の収益環境が改善方向にある
- 拡張投資意欲の高さと整合的な動きになっている
という“方向性の一致”です。
実際、製造業を中心に稼働率の正常化が進み、内需回復の恩恵を受けるサービス業も増加。収益基盤は総じて持ち直し局面にあると評価できます。
経営判断への示唆
以上を踏まえると、現在のベトナム市場は、次のフェーズへと移行中であると整理できます。
- 単なる「進出ブーム段階」ではもうない。
- 適切な事業設計を行えば収益化が視野に入る市場。
%数値の読み方には一定のリテラシーが求められます。ですが、黒字化企業が増加傾向にあるという大局的な事実は、日本企業の中長期投資判断において、引き続き重要なシグナルと言えるでしょう。
マクロ環境視点において、なぜ今もベトナムが選ばれるのか
日本企業の海外展開先としてベトナムが継続的に選好されている背景には、短期的なコスト優位だけでは説明できない、いくつかの構造的要因が存在します。そして、JETRO 調査や各種市場分析を総合すると、評価軸は大きく「内需成長」「製造拠点機能」「将来投資期待」の3点に集約されます。
①高成長の内需市場
まず第一に挙げられるのが、ベトナム国内市場の持続的な成長力です。
Vietnam Investment Review(VIR) によれば、多くの日系企業が事業拡大の理由として、以下を指摘しています。
- 国内消費が拡大していること。
- 中間層が増加していること。
- 都市部における購買力が上昇していること。
ベトナムは人口約1億人規模の市場を背景に、小売・サービス・住宅関連など幅広い分野で需要の底上げが続いています。従来は「輸出加工拠点」としての評価が先行していました。ですが、近年は内需取り込み型の成長市場としての位置づけが明確になりつつあります。
経営視点で見ると、これは単なる製造コストの比較優位ではありません。現地売上を伴う事業モデルが成立しやすい市場環境を意味します。
②製造拠点としての確固たるポジション
一方で、ベトナムの製造ハブとしての機能も依然として強固です。
VietBizの整理によれば、ベトナムに進出する日系企業の約半数が製造業であり、産業集積は現在も進行中です。
特に集積が進んでいる分野としては、以下のものが挙げられます。
- 電子部品
- 自動車部品
- 精密加工
これらの分野では、サプライチェーンの多層化と裾野産業の形成が進んでいます。そして、単独工場型の進出からエコシステム型の産業集積へと移行しつつあります。
この動きの背景にあるのが、いわゆるChina+1戦略です。地政学リスク分散、コスト構造の見直し、サプライチェーン再編といった複合要因により、ベトナムは中国代替・補完拠点としての地位を確立してきたのです。
③ASEANで最も「拡張志向」が強い市場
さらに注目すべきは、既進出企業の将来評価です。
JETRO調査を引用した theinvestor.vn の報道によれば、ベトナムはASEANの中でも事業拡大意欲が最も高い市場の一つと評価されています。これは単に新規進出が多いという話ではありません。
すでに現地で事業運営を行っている企業が、「追加投資」「能力増強」「事業領域拡張」を前向きに検討していることを意味します。
経営実務の観点では、この“既存プレイヤーの増資姿勢”こそが市場の健全性を測る重要指標です。進出後に期待値が剥落する市場では拡張意欲は低下します。ですが、ベトナムではむしろ高水準を維持しており、中長期の事業展開余地が依然として大きい市場であることを示唆しています。
*ベトナム市場について、より現地実務の視点から整理した『【現地情報】ベトナム市場はまだ伸びるのか?人口構造で読む戦略』もあわせてご覧ください。
コスト優位から「成長市場」評価へ
以上を踏まえると、日本企業にとってのベトナムは、
- 低コスト製造拠点
- China+1の受け皿
- 内需成長市場
- 既進出企業の拡張余地が大きい国
という複合的な魅力を持つ市場へと進化しています。
短期的な人件費比較だけでは測れない構造優位が形成されている点こそ、現在もベトナムが有力な進出候補として挙がり続けている本質的な理由と言えるでしょう。
ただし、進出判断で見るべきリスク
ここまで見てきた通り、ベトナム市場には多くの成長機会が存在します。
しかし、実務的な海外展開の判断において、ポジティブ要因のみで評価するのは適切ではありません。むしろ重要なのは、機会と同時に構造的リスクを正確に把握し、自社の事業モデルに照らして織り込めるかどうかです。
JETRO調査を引用した各種報道では、ベトナムに進出する日系企業の主な経営課題として、以下の点が継続的に指摘されています。
- 中国企業との競争激化
- 人材獲得競争の深刻化
- 行政手続きの複雑さ・不透明性
いずれも、近年の事業環境変化を反映した“構造課題”であり、短期的に解消される性質のものではありません。
(出典:nationthailand[JETRO調査引用])
おわりに
ベトナムは、もはや「安いから進出する国」ではありません。
成長性、拡張意欲、収益回復。
複数のマクロ指標が示しているのは、同国が事業として勝ちに行く市場へと移行しているという事実です。
もちろん、競争環境や人材、市場運用には織り込むべきリスクも存在します。しかし裏を返せば、現在のベトナム進出は「参入するか否か」ではなく、どう戦略設計すれば勝てるかのフェーズに入っています。
MISSION.Hは、表面的な進出判断ではなく、現地で“機能する事業設計”までを見据えた意思決定を支援します。
数字の先にある実務を見たい方は、ぜひ次の一手を検討してみてください。