【現地情報】ベトナムのカジノ事情|合法性と最新動向

【現地情報】ベトナムのカジノ事情|合法性と最新動向

はじめに

これまで、ベトナムにおいてはPhu Quoc(フーコック)や一部カジノ施設で、外国人観光客や在留外国人を主な対象に、カジノ運営がなされてきました。

しかし、直近では『08/2025/NQ-CP』(以下「決議第8号」)が公布。これにより、「一定条件を満たすベトナム国民のカジノ利用」が公式に認められます。まさに今、ベトナムの状況が大きく変わろうとしています。

本記事では、ベトナム国内のカジノ事業の法制度。そして、2025年に起きたプルマン事件や首都ハノイでの合法パチンコ店の出現。また、今回の決議第8号の意味。これらを整理し、今後の事業参入を検討する方に向けた記事として要点をまとめます。

ベトナムにおけるカジノ合法化の歴史と制度枠組み

基本法令と許認可制度

カジノ事業の基本法は『03/2017/ND-CP』に定められています。そして、この政令のもとで「カジノ事業」は、“条件付き事業”と定義されています。この政令では、カジノ業の許認可、運営基準、監督・罰則が規定されています。そして、運営には政府発行のライセンス承認が必要だと明記されています。

首都ハノイの de’l Opera Hotel に入居する日系法人が運営する"HOLLYWOOD ONE GAMING CLUB"
首都ハノイの de’l Opera Hotel に入居する日系法人が運営する”HOLLYWOOD ONE GAMING CLUB”

実務上、多くのカジノはホテル・リゾート等を含む大型プロジェクト(統合型リゾート)として投資登録・運営されることが要件・慣行になっています。法令上も立地条件・施設基準(宿泊施設等)を満たす必要がある条項があります。そのため、実務ではIR型での認可が一般的です。

また、投資家(外国投資家含む)がカジノを開業するには注意が必要です。投資登録、資本金拠出、事業計画の提出、関連法令への適合、安全・監督体制の整備など、厳格な手続き・条件があるためです。違法な運営、不正な通貨取引、ライセンスなし、不適切な入場者管理は厳しく禁じられています。これらは、行政処分やライセンス取消しの対象となるのです。

出典①:HARLEY MILLER LAW FIRM – Legal Requirements for Foreigners Opening a Casino in Vietnam
出典②:Global Referral Network – How to Open a Casino in Vietnam as a Foreigner

これまでのベトナムにおける「外国人専用」運営の背景

『03/2017/ND-CP』では、『外国人・海外ベトナム人は原則入場可』と規定。一方で、「ベトナム国民の入場を一定条件下で認めるパイロット(試行)規定」 も含んでいます。

そのため、2017年当時には限定的な試行を想定していました。確かに制度上は厳格な条件付きでベトナム人の利用を許容する仕組みがあります。ですが、実務的には多くのカジノが外国人向けに運営されてきたと言えます。

出典:Hoi Dap Phap Luat – In Vietnam, are foreigners allowed in casinos?

首都ハノイの Baoson International Hotel に入居する"Versaces Club"
首都ハノイの Baoson International Hotel に入居する”Versaces Club”

決議第8号とベトナム人のカジノ利用解禁

2025年11月の決議第8号のポイント

条件を満たすベトナム国民が、特定カジノ・プロジェクトでギャンブル可能となりました。

今回の対象プロジェクト

  • Ho Tram Casino Project(ホーチャム|ホーチミン市)
  • Van Don Casino Project(ヴァンドン|クアンニン省)
  • Phu Quoc Casino Project(フーコック|キエンザン省)

Ho Tram と Van Don の2施設は、「5年のパイロット」としてベトナム人利用を認めることに。ただし、この制度は永続ではありません。パイロット期間終了後は関係当局の判断を経て、ベトナム人利用の継続可否が決められます。

出典①:Government News – Gov’t permits qualified Vietnamese nationals to gamble at three casinos
出典②:Vn Economy – Qualified Vietnamese nationals allowed to gamble at three casinos

カジノ入場にあたってのベトナム人の要件

カジノを利用するベトナム人には要件が課されています。

  • 21歳以上であること
  • 月収 VND 10,000,000 以上の証明があること

これらが、年齢及び経済要件です。そのため、入場には所定の書類(税務証明・預金通帳の提示等)で財務状況を証明する必要があります。

また、カジノ運営側は、監視カメラ、現金・トークンの管理ソフト、入退場管理、内部管理部門の設置といった、厳格な監督・管理体制を整備することが法令で義務付けられています。これらを満たした上で政府発行の許可を受ける必要があるのです。

以上から、ベトナムにおけるカジノ事業は「ライセンス取得 + 大型統合リゾート + 厳格なコンプライアンス」が前提であることが分かります。

ベトナムのカジノ摘発事件|非合法ギャンブルと社会的リスク

2025年10月、首都ハノイのPullman Hanoi Hotel内にあった”King Club”で、「ベトナム人を外国人と偽って入場させ、違法ギャンブルを行っていた」という事件がありました。そして、100人以上の被告が起訴されました。具体的な起訴者数は合計141人。うち5人が「ギャンブルの組織・運営」、136人が「賭博行為」で起訴。

報道によれば、ベトナム国民に対しても、偽名・偽外国人名義を与え、カジノ利用を認める不正営業が行われていたとされています。賭博に参加・起訴された136人のベトナム人の中には、元高級官僚、弁護士、歌手、実業家、医師など社会的地位が高い人物が含まれていました。そのため、この事件はベトナム社会に大きな波紋を呼びました。

また、被告の一人であるHo Dai Dung(旧フート省人民委員会副主席)は、2024年2月〜6月にかけて95回賭博、合計で約700万米ドルを賭けたと報道されています。

このような事件は、制度の不透明性、脱法ギャンブルの温床、法令遵守の不徹底、コンプライアンスリスクなどを意味しています。そのため、事業関係者・投資家としても重大な警鐘でしょう。

出典:Quan doi nhan dan – Vu danh bac nghin ty o khach san Pullman Hà Nội

ハノイに登場した完全合法パチンコ店

2025年11月25日、首都ハノイに「完全合法」を掲げたパチンコ店 HOKUTO DREAM が、日系企業によってオープンしました。店舗は韓国人居住者が多い街区 My Dinh(ミーディン) に位置し、「Golden Palace」ビル地下1階に入居しています。(「スロアフロ – ベトナムに完全合法のパチ屋グランドオープン」で、店内の様子がわかります。)

ビル内はとても静かで、天井に案内が掲げられています。
ビル内はとても静かで、天井に案内が掲げられています。

店内には日本語表記が多く、注意書きには韓国語も併記。スタッフの多くが日本語を話せることから、立地こそ韓国人街であるものの、主なターゲットは日本人顧客であると考えられます。

スタンプカードにも日本語と韓国語は併記
スタンプカードにも日本語と韓国語は併記

日本のパチンコは「三店方式」によって合法的に運営されています。ですが、ベトナムではその仕組みが存在しません。そのため、HOKUTO DREAMは、現地法の枠内である「パブリック電子ゲームサービス提供 – Cung cap dịch vụ tro choi dien tu cong cong」という名目で事業を展開していると見られます。

近年のカジノ合法化議論や、国内外投資家による娯楽施設の拡大。そして、こうした日本式パチンコの登場は、ベトナムにおけるギャンブル・娯楽市場の需要が高まっていることを示す象徴的な動きと言えるでしょう。

今後のベトナムにおけるカジノ業界の展望と注意点

カジノビジネスの機会

今回の決議により、一部エリアではベトナム人も対象となりました。これまで外国人観光客中心だったカジノ需要に「ベトナム国内需要」が加わる可能性が高まっており、市場規模の拡大が期待できます。特に、既存の大規模リゾート・統合型施設を運営する企業や、参入を検討する外国投資家にとっては、新たな収益源の獲得に繋がります。

リスクと留意点

他方、留意点もあります。まず、ベトナム人の対象拡大はパイロットであることです。そのため、「5年が経過した時点で継続されるかどうか」は依然不透明なのです。つまり、投資や事業計画には「不確実性」が伴うと言えます。

また、ハノイには10店舗以上のカジノが存在します。ですが、一般的には、観光地・リゾート地に集約されがちです。実際にカジノは、地理・市場の偏り、観光客の変動、経済状況の影響を強く受けます。そのため、事業投資には慎重な判断が必要と言えるでしょう。

おわりに

ベトナムが「外国人のみ対象」というカジノ政策から一歩踏み出しました。これは、「条件付きでベトナム国民のカジノ利用」を試験的に認めるという画期的な政策転換と言えます。同時に、ベトナムの経済成長の著しさ・ベトナム国民の所得の増加を示していると言えるでしょう。

今後、ベトナム進出やベトナム移住を検討される方で、現地の情報をお求めの場合には、お気軽にご連絡下さい。