【現地情報】ベトナム最低賃金|2026年改定のポイント
はじめに
ベトナムは近年、経済成長・外資誘致・製造業拡大のフェーズにあり、労働市場も変化しています。特に「最低賃金」は、ベトナム進出を検討する企業にとっては重要な指標です。
この記事では、ベトナムの地域別最低賃金、2026年に予定されている改定内容、知っておくべきポイントを整理します。
ベトナムの給与上昇率|東南アジアで最も高い伸びを記録
世界的な人材サービス企業Aonのレポートによると、東南アジア地域の給与上昇率は2026年に平均 5.3% に達すると予測されています。
その中でも、ベトナムは7.1%の上昇率で地域トップの伸びを示す見通しです。
各国の予測上昇率は以下の通りです。
- インドネシア:+5.9%
- マレーシア:+4.8%
- フィリピン:+5.2%
- シンガポール:+4.3%
- タイ:+4.7%
- ベトナム:+7.1%
業界別では、ベトナムとインドネシアでテクノロジー分野の給与上昇が特に顕著です。また、この結果はベトナム経済が東南アジアの中でも際立った成長を遂げていることを示しています。そして、同時に経済拡大と賃金上昇が密接にリンクしていることがわかります。
参照:”SIA Southeast Asia salaries to rise 5.3% in 2026, Vietnam leads the way”
ベトナムの地域別最低賃金制度の仕組み
ベトナムでは、地域(地域1~4)ごとに「地域最低賃金」が設定されています。この枠組みは、都市化・経済発展度合・生活水準の違いを反映するものです。
例えば、都市部のハノイ・ホーチミンは地域1に分類され、地方部や農村部が地域3・4に当たります。この分類制度により、同一国の中でも地理的・経済的条件に応じた最低賃金差が存在します。
2024年7月時点では、地域別の月額最低賃金は
- 地域1:VND 4,960,000(VND 4,680,000 から)
- 地域2:VND 4,410,000(VND 4,160,000 から)
- 地域3:VND 3,860,000(VND 3,640,000 から)
- 地域4:VND 3,450,000(VND 3,250,000 から)
となっています。
参照①:”MERCANS Vietnam – Monthly Minimum Wage Update – 1 July 2025”
参照②:”Government News Fresh regional minimum wage effective from July 1”
2026年改定予定|“+7.2%”が目安
2026年1月1日から適用する提案として、政府は全国平均で7.2%の地域別最低賃金引き上げを提示しています。具体的には、次のような数字が報じられています。
- 地域1:VND 5,310,000(VND 4,960,000 から)
- 地域2:VND 4,730,000(VND 4,410,000 から)
- 地域3:VND 4,140,000(VND 3,860,000 から)
- 地域4:VND 3,700,000(VND 3,450,000 から)
この改定の背景には、生活費上昇(住居・物流・教育費)や労働者の最低生活保障を高める政策的意図があります。ただし、企業側にはコスト上昇・保険料ベース上昇・人件費構造見直しといった負荷も懸念されています。
参照①:”Government News Ministry proposes 7% increase in regional minimum wage from 2026”
参照②:”Saigon News 7.2-percent wage hike proposal aims to ease worker burdens amidst inflation“
ベトナムの日系邦人と進出検討企業が知るべき影響
① 雇用コストの影響
最低賃金引き上げは、単に「この金額を下回ってはいけない」という法規制であるだけではありません。従業員の保険料計算基礎や福利厚生、各種手当のベースにも影響します。労働者を多く抱える製造業・サービス業は、コスト設計の見直しが今後必要です。
対応策としては、
- 労働契約・手当構造を改めて見直す。
- 地域別賃金構造を理解し、製造拠点別の給与レンジを設定する。
などが挙げられるでしょう。
② 駐在員視点
「最低賃金」は駐在員にとっても見逃せないポイントです。例えば、「駐在員の家族帯同・子どもの教育・住宅環境」などを考えると、都市部(地域1)での「生活コスト」は地方より高めに想定する必要があります。
つまり、最低賃金上昇が示すのは、「ベトナム国内での生活水準の底上げが進んでいる」ということです。そのため、駐在員自身も日々の生活コストを意識する必要があります。
③ リスク・機会の観点
- 機会
賃金上昇は消費力の向上を意味し、ベトナム国内市場の拡大・中間所得層の増加が期待されます。 - リスク
コストプレッシャーが高まる中、低価格競争または付加価値低のビジネスモデルは収益性が圧迫される可能性があります。特に中小法人は「賃金だけ上げて生産性が上がらない」状態を避ける計画が必要です。
留意点・確認すべきポイント
-
地域分類・更新日
地域の格付け(地域1〜4)は管轄改編等で変動があります。そのため、最新の区域と最低賃金額を確認するようにして下さい。ベトナムでは特に7月と1月に、様々な法制度が変更されます。 -
手当・福利厚生の取り扱い
最低賃金上昇を理由に手当を削減することは禁止されています。企業は既存手当・残業代・シフト手当などを維持する義務があるので注意して下さい。 -
時間給の適用
最低賃金には月額だけでなく時間あたりレートも設定されます。多くのパートや派遣労働者には時間給ベースの影響があることに気をつけて下さい。 -
進捗と確定
提案が政府の正式決定・公布を経て初めて施行となります。2026年の数値はまだ「案」である点を留意して下さい。 -
企業別対応フロー
給与構造の見直し、契約・就業規則のアップデート、社内モニタリングシステムの整備を早めに計画しておきましょう。
おわりに
2026年から、ベトナムの最低賃金は平均7.2%の引き上げが提案されています。そして、最低賃金の動きは「コスト設計・人材採用・福利厚生」の観点で見逃せない指標です。
特に都市部での人件費上昇・生活コスト増加と対峙しながら、現地市場の消費潜力拡大というチャンスも捉える必要があります。そのため、進出・駐在を検討する際には、最新の最低賃金額・地域分類・企業対応体制を必ず確認し、リスクと機会を両面から見据えた戦略を立てましょう。
情報というのは、事実からの考え方で大きく変わるもの。情報の扱い方や現地情報の収集にお困りの方がいれば、ぜひご連絡下さい。
また、ベトナムの賃金に関する記事は、こちらもご参考に。