【ベトナム進出/移住】初めてでもわかる会社設立の手順
はじめに
2025年現在、ベトナムはアジアの進出先としてインドと並ぶ人気を誇っています。私が拠点を置くハノイでは、かつては大手日系企業の製造工場が進出の中心でした。しかし、近年ではサービス業や飲食業での進出が増加しています。
ベトナムが進出先として注目される理由には、高い経済成長率、若く豊富な労働力、親日的な国民性、そして地理的・経済的な優位性があります。ですが、日本とは異なる制度や手続きが多いため、会社設立の手順を正しく理解することが、現地での成功の第一歩となります。
本記事では、初めてベトナムで会社を設立する方に向けて、法人形態の選び方から設立完了までの具体的な手順をわかりやすく解説します。既存の進出ノウハウブログ『【ベトナム進出】法人設立から現地運営まで完全ガイド』の補完にもなり、私の体験談を交えつつ、この記事単体でも会社設立の全体像がくわしく理解できる内容です。
注意点
ベトナムの法制度は日本と異なり、非常に流動的で変化することがあります。また、担当者レベルによって必要書類や手続きの難易度も異なる場合があります。そのため、進出を本格的に進める際は、必ず専門業者に直接確認することをおすすめします。
1. ベトナム法人の種類と選び方
ベトナムでは主に以下の3種類の法人形態で進出します。そして、どの形態を選ぶのかは、進出の目的や業種によって異なります。(今回は駐在事務所は省略しています)
1-1 有限責任会社(LLC)
- 特徴:1~50名の出資者で構成、外資100%での設立が可能
- メリット:意思決定が迅速で管理が簡単
- デメリット:株式を発行できず、大規模資金調達や上場には不向き
- おすすめ:中小企業、子会社、現地展開をスモールスタートしたい企業
補足
LLCは、日本の子会社形態に近いです。そのため、出資者間の合意書を明確にしておけば、比較的スムーズに設立できる形態です。
1-2 株式会社(Joint Stock Company / JSC)
- 特徴:株式発行可能、将来的に上場可能
- メリット:資金調達や事業拡張に有利
- デメリット:会計・監査・報告義務が複雑
- おすすめ:将来的に上場や大規模事業展開を目指す企業
補足
JSCは、資本金を数千万円~数億円単位で用意する必要があります。また、株主総会や取締役会の設置義務も生じます。
1-3 合弁会社(Joint Venture)
- 特徴:現地企業との出資・業務提携
- メリット:現地ノウハウ・ネットワーク活用可能、営業開始が迅速
- デメリット:パートナー選定を誤ると契約トラブルや経営摩擦のリスク
- おすすめ:単独進出が難しい、信頼できる現地パートナーがいる場合
補足
JVは、単独進出ができない業種でよく取られる形態。そして、これは外資規制という外国に対する規制の問題が関係しています。なお、外資規制に関しては、『【ベトナム進出/移住】ベトナムの外資規制』の記事をお読み下さい。
2. 会社設立に必要な条件
ベトナムで会社を設立するために、まずは以下の条件が必要です。
- 資本金:外資法人の場合、2025年現在は、実務上で3,000万円前後が目安です。
- 代表者・出資者:個人または法人のいずれでも可能です。
- 事業内容:設立時に明確化する必要があります。ライセンス必要業種は追加許認可が必要です。
補足例
外資企業で飲食業、小売業、輸出入業などの場合、別途営業許可や特別ライセンスが必要なときがあります。
3. 会社設立のステップ
ステップ1:オフィスの確保
ベトナムでは、法人設立時に実態のあるオフィスが必要です。(『【ベトナム進出】法人設立から現地運営まで完全ガイド』では、「オフィス確保」を第一ステップとして触れていませんでしたが、本記事では「初めての法人設立」として詳しく記載致します。)
- 条件:登記可能な商用オフィス(バーチャルオフィス不可)
- 活用例:ホーチミン・ハノイのレンタルオフィス、工業団地のオフィス
- 注意点:賃貸契約書は法人設立申請で必須。
ベトナムでは、レッドブックと呼ばれる「土地使用権証明書」があります。法人を設立する際、オフィスや工場用地を登記する場合に、オフィス・工場がある土地の「レッドブック」が必要になることがあります。そのため、必ず契約前に「レッドブック」の有無を確認して下さい。
ステップ2:投資登録証(IRC)の取得
外資企業の場合、まず投資登録証(Investment Registration Certificate)を取得します。
- 申請先:計画投資局(DPI)
- 申請内容:出資比率、事業内容、資本金、所在地など
- 審査期間:通常30営業日
- 注意点:事業内容がライセンス対象の場合、追加資料の提出が必要
一度で通る場合もありますが、何度も落とされる場合もあります。日本企業が一番躓くのがこの「IRC」の取得です。言い換えれば、「IRC」さえ取得できれば、他は比較的スムーズに進みます。
ステップ3:企業登録証(ERC)の取得
IRC取得後、正式に法人として登録します。「IRC = 投資許可/ERC = 企業登録」と捉えて下さい。
- 提出先:企業登録局(ERC)
- 必要書類:IRC、定款、代表者情報、事業計画書、オフィス契約書など
- 審査期間:通常7営業日
- 補足:ERC取得後、銀行口座開設や印章登録が可能になります。
ステップ4:税務登録
ERC取得後、税務登録を行って納税者番号(TIN)を取得します。
- VAT登録:標準税率10%(業種による)
- 電子インボイス(e-Invoice)登録:発行義務あり
- 補足:税務登録の順序や必要書類は銀行口座開設と密接に関係する
事業を開始するとわかることではありますが、ベトナムでは税務の重さが日本と異なり随分と厳格です。
ステップ5:印章登録
いわゆる法人代表印を作成・登録します。
- 法人印鑑を公安局に登録
- 契約書・公式書類で使用可能
- 補足:印章登録証は銀行・税務・契約など全ての公式手続きで必須
ベトナムはデジタル化戦略に力を入れる一方、未だに印鑑文化が残っています。そのため、契約取り交わし場面では、印鑑の押し方で契約が無効になることもあります。
ステップ6:銀行口座開設
法人用に銀行口座を2つ開設します。
- 資本金払い込み用口座を開設
- 事業用口座を開設
- 必要書類:ERC、代表者パスポート、印章登録証、オフィス賃貸契約書など
- 注意点:多くの銀行では、代表者の現地渡航・署名・本人確認が必須
法人用銀行を運用するためには、経理担当者を設置する必要があります。外注化も可能ですが、お金まわりは日本よりも厳格だと捉えて下さい。
4. 会社設立に必要な書類一覧
会社設立には、主に以下の書類が必要です。
- パスポートコピー
- 会社定款
- 事業計画書
- 日本法人登記簿謄本
- オフィス賃貸契約書
- 銀行残高証明書
それぞれベトナム語への翻訳や公証が必要です。また、上記以外の書類も当局から提出を求められることがあります。そのため、これらはあくまで最低限必要な書類と捉えて下さい。
5. よくある設立時のトラブルと回避法
書類不備による設立遅延
- 原因:ベトナム語翻訳ミス、公証不備、オフィス契約が商用利用不可など
- 対策:実績ある専門業者に依頼、オフィス契約書は「商用利用可」を確認
資本金不足によるIRC承認不可
- 原因:実務上3,000万円以下だと承認が下りない場合がある
- 対策:資本金計画は余裕を持たせる。出資比率や事業内容と整合性を確認
契約・商慣習の違い
- 原因:口約束、非文書化取引、履行されない契約
- 対策:全て文書化、署名・印鑑必須。紛争時の準拠法を明確に
体験談
私が初めてベトナム進出した際、IRC取得に4回落ちました。
1回目:資本金を1,500万円以上に設定するよう指示
2回目:レンタルオフィスの消防設備に不備あり
3回目:資本金を2,000万円以上に設定するよう再指示
4回目:消防設備への再指摘と資本金額変更の再々指示
日本の感覚では「やり直せばOK」と思いがちです。しかし、ベトナムでは言われた通りに修正しても、別の指摘が出ることが多く、明確なセオリーは存在しません。そのため、当局との度重なるやり取りと柔軟な対応が必要なこともあります。
6. Q&A形式の補足
Q1. 外資100%でもLLCは設立可能ですか?
→ はい、LLCは外資100%で設立可能です。ただし事業内容によっては制限がある場合があります。
Q2. 設立にかかる期間はどのくらいですか?
→ IRC取得30営業日程度、ERC取得7営業日前後、銀行口座・印章登録を含めると2か月〜が目安です。
Q3. 投資登録証に記載する資本金は固定ですか?
→ 実務上、記載資本金を満たして払込を完了する必要があります。増資や変更も可能ですが、手続きが必要です。
Q4. 会長と社長の違いは何ですか?
→ 会長は会社の持ち主、社長は実務上の代表者と捉えて下さい。また、会長と社長を兼任する場合もあります。
7. まとめ:初めての会社設立で押さえるポイント
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法人形態選定:LLC、JSC、合弁会社の特徴を理解
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設立条件確認:資本金・代表者・事業内容を確実に
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手順通りに申請:オフィス → IRC → ERC → 税務登録 → 印章登録 → 銀行口座
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書類・認可の確認:翻訳・公証・資本金を確実に
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トラブル回避:商慣習や契約方法に注意、専門家サポートを活用
おわりに
会社設立は、あくまで「ベトナム進出が前提」の話。その前段階として、「本当にベトナムに進出すべきか」といった意思決定や現地調査のサポートも、MISSION.Hは提供しています。ベトナム進出や移住の判断に迷いがある方は、お気軽にご相談ください。
また、会社設立に関する情報や会社設立前に役立つ情報は、以下の記事もご参考に。