【現地情報】ベトナムでの商標・知的財産権の守り方
はじめに
ベトナム市場に進出する日本企業が増える中で、商標・知的財産権の保護は経営上の重要課題となっています。模倣品の流通、ブランド名の先取り登録(トレードマークスカッティング)など、知財トラブルは現実に発生しています。そのため、法的リスクを理解した上での対応が不可欠です。
今回の記事では、ベトナムで商標や知的財産権を守るための正確な手続き・機関・実務ポイントを、公的情報と実例に基づいて解説します。
ベトナムの知的財産権の基本構造
管轄機関
ベトナムにおける知的財産権は、科学技術省(MOST: Ministry of Science and Technology)の下にある国家知的財産庁(NOIP: National Office of Intellectual Property)が管轄しています。
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公式サイト:『https://www.ipvietnam.gov.vn/』
主な対象知財
- 商標 – Trademark(ブランド名やロゴ):登録により保護され、ベトナムは先願主義を採用。
- 特許 – Patent(技術・発明):登録により保護。
- 意匠 – Industrial Design(製品デザイン):登録により保護。
- 著作権 – Copyright(文書・映像・音楽):創作時に自動発生(登録は任意/紛争時の証拠として登録推奨)。
関連法
知的財産法(Luật số 50/2005 等)は 2005 年に制定されました。その後、『Luật số 07/2022』で改正されました。改正法は、主に2023年1月1日に発効しました(音声商標等一部は別日)。そして、オンライン手続きや音声商標の保護など、デジタル時代に対応するための規定整備や手続き簡素化の方向が示されています。また、実務上の細目は『Nghị định số 65/2023/NĐ-CP』等で定められています。
ベトナムの商標制度の特徴
先願主義
ベトナムの商標制度では「先願主義」を採用しています。つまり、「最初に出願した者が権利を得る」制度です。そのため、現地展開前に必ず商標登録を完了させることが重要です。実際、ベトナムでは海外ブランド名を先に第三者が登録するケース(トレードマークスカッティング)が後を絶ちません。
有効期間と更新
- 登録有効期間:「10年」です。
- 更新:10年ごとに無制限で更新可能。
更新は満了の6か月前~満了後6か月以内の申請が認められています。また、満了後の猶予申請には追加手数料(遅延料金)が必要です。
多区分出願が可能
ベトナムでは一つの出願で複数クラスの指定(マルチクラス出願)が可能です。ただし、複数クラス出願は審査で時間がかかる場合や、「拒絶/異議」の結果に応じて出願の分割が行われる可能性があります。そのため、費用や戦略面での検討が必要です。
商標登録の実務プロセス
- 事前調査
NOIPデータベースまたは代理人による登録済み商標との類似確認(任意)。 - 出願書類提出
「申請書・商標見本・委任状など」を現地代理人を通じてNOIPへ提出(外国企業は代理人が必須)。 - 形式審査
書類・要件の確認。補正が必要な場合は通知あり。 - 公告・実体審査
官報公告 → 異議申立受付 → 実体審査(識別力・類否など)。 - 登録・証明書発行
登録料支払い後、登録証明書が発行され、商標権が発生。
全体の目安期間:14〜20ヶ月。混雑や補正で長期化することもあります。
日本企業が直面しやすいリスクと対策
ベトナムで事業を展開する際、商標権の保護は大切です。なぜなら、ビジネスの信頼性やブランド価値を守るための「防波堤」となるからです。実際、多くの外資企業がこの分野で予期せぬトラブルに直面しています。ここでは、よくある3つのリスクと、実務的に有効な対策を解説します。
リスク①:ブランド名の先取り登録
前述の通り、ベトナムでは「先願主義」が徹底されています。つまり、先に出願した者が商標権を取得します。たとえ商標の「本当の使用者」が他にいたとしても覆らないことが多いです。そのため、先に第三者が登録してしまうと、そのブランド名を自社が使えなくなる可能性すらあります。
対策:ベトナム進出前(市場調査段階)で商標を出願。
できるだけ早く(市場調査や現地視察の段階など)商標を出願することです。実際に、現地法人設立よりも前に出願する企業もあります。そして、早期の権利取得が、後々の交渉リスクや不正使用防止に大きく寄与します。
リスク②:模倣品・偽造品の流通
ベトナムでは、模倣品・偽造品の問題も深刻です。特に人気のあるブランドや、化粧品・アパレル・電子機器などは模倣品の標的になりやすい分野です。商標登録をしていないと、こうした不正使用を止める法的根拠がなく、ブランドの信頼を損なうリスクが高まります。
対策:登録後、税関へ商標登録通知。模倣品の輸出入を検知できる体制を構築。
商標登録後は、税関への通知とあわせて、模倣品の流通をモニタリングできる体制を構築することが効果的です。代理人や調査会社を活用し、定期的な市場パトロールを行う企業も増えています。特に消費者への信頼が重要な日本企業にとって、ブランドの“防衛線”として有効な施策です。
(参考:Vietnam Customs Anti-Counterfeit Measures)
リスク③:商標権の不使用取消し。
ベトナムの商標法では、登録から 5年間連続して商標を使用していない場合、第三者から取消請求を受ける可能性があります。つまり、登録したまま放置していると、権利を失うリスクがあるということです。
対策:登録後、実際の使用証拠を残す(商品・広告等)。
商標登録後も、ブランドを現地で適切に使用し続けること。そして、その証拠を体系的に保存する体制を整えることが、取消しリスクの軽減につながります。使用証拠の管理は、日系企業が見落としがちなポイントです。
ベトナムで商標出願するためには代理申請が必須
ベトナムでは、外国企業が自社で NOIP へ商標出願を行うことは認められていません。商標登録を行うには、現地の知的財産代理機関(IP Agent)を通じて申請することが法律上義務付けられています。これは、商標・特許・意匠といったすべての知的財産分野に共通するルールです。出願の際には、外国企業は委任状を発行し、正式に代理機関へ手続きを委任する必要があります。紙ベースのPOAが求められるケースも多いため、余裕をもったスケジュール設計が重要です。
代表的な商標登録代理機関(IP Agent)
ベトナムにはNOIPから認可を受けた数多くのIP Agentがあります。以下は、実務経験が豊富で日本企業からの利用実績もある代表的な代理機関です。
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Tilleke & Gibbins Vietnam(ホーチミン/ハノイ)
東南アジア全域に拠点を持ち、外国企業の商標出願・保護に強みを持つ国際系ローファーム。 -
Vision & Associates(ハノイ)
ベトナム有数の法律事務所。商標・特許の代理申請実績が豊富。 -
Phan Law Vietnam(ホーチミン)
商標登録から訴訟対応まで幅広く対応する法律事務所。模倣品対策にも強みあり。
おわりに
ベトナムでは商標・知的財産権の保護が「出願の早さ」=「ブランドの強さ」を左右します。特に、模倣や先取りが多い東南アジア市場では、「実際に使う前に登録する」ことが最も重要です。
また、ベトナムでは法改正も頻繁なため、進出企業は現地の知財代理人と連携し、常に最新情報を把握することを心がけて下さい。他にも、ベトナムの現地情報が必要な場合には、いつでもご連絡下さい。
また、ベトナムの法律に関する記事は以下を参考に。