【現地情報】ベトナム消費者が信頼するブランドの条件
なぜベトナムで“信頼”が集客のカギになるのか?
ベトナムの消費市場では「情報過多」と「選択肢の多様化」が進んでいます。そして、消費者は価格だけで商品やサービスを決定しません。「安心・信頼」を重視する傾向が強くなっているのです。
PwC の “Voice of the Consumer Survey 2024″ によれば、ベトナムでは「透明性」「一貫性」「価格以上の価値」が信頼構築の鍵であるとされています。つまり、消費者は“信頼できるブランド”に対して、より高い価値を払おうとする意識があるということです。
さらに、ブランドの信頼と集客(購入意向・継続利用率・口コミ誘発力)の間には定量的な関連が、多くのマーケティング研究で証明されています。例えば、オンラインレビューの信頼性がブランド信頼を高め、購入意向を媒介する作用を持つという研究(Taylor & Francis)があり、レビュー・口コミの質が集客力を左右する一要因となります。
このような背景を踏まえると、ベトナムで”信頼”をどう設計できるかが、集客力を左右する最重要戦略と言えます。
今回は、日系企業がどのようにしてベトナム人を集客すべきか、「信頼を集客に繋げる戦略モデル」について、私の体験談も交えて解説していきます。
1. ベトナム人が“信頼”するブランドの心理構造
集客に繋げるブランド信頼を築くには何が必要でしょうか?それは、ベトナム消費者の心性・文化・社会構造を理解することです。ここでは、その心理構造をいくつかの観点から整理します。
感情優位型(“あたたかさ=信頼”)
ベトナムでは、人間関係文化・家族中心文化が強いです。そのため、温かみや共感性が信頼構築に大きく作用します。Research Gate 掲載の研究では、Brand Warmth(ブランドの温かみ) が顧客エンゲージメントに正の影響を持つ要因として確認されています。そして、それが最終的にブランド忠誠に結び付きます。
つまり、冷たい「合理的ブランド」より、「人間味のあるブランド」への親近感が購買の後押しになります。
参考:『“Factors affecting customer engagement and brand loyalty in Vietnam FMCG”』
口コミ文化・紹介性信頼
ベトナムは、口コミ文化が非常に強い社会です。つまり、家族や知人の意見、SNSでの評価が購買判断に強く影響します。レビューの信頼性が、ブランド信頼を育むことを示した研究も、レビューソース・一貫性が鍵であると指摘しています。さらに、Science Direct 掲載の研究でも、消費者は友人・家族の推薦を重視する傾向が観察されています。
このように、口コミやレビューを通じて“第三者の信頼”が導線となりうるのです。
参考:『Taylor & Francis』『“Vietnamese consumer’s perspective on green beauty care”』
SNS・デジタル社会化と信頼意識
ベトナムではスマートフォン普及率が高いです。そのため、消費者はSNSやモバイルアプリを通して、ブランドと接点を持ちます。Google のレポートでも、ベトナムの消費者はブランドの「データプライバシー」「透明性」を期待していることがわかります。そして、ブランドがそれを守る姿勢を見せることが信頼醸成に不可欠とされています。
つまり、「オンライン対応・セキュリティ・プライバシー対応力」は、現代ベトナムでの信頼構築要素の必須領域と言えます。
参考:『Think with Google』
2. 体験談”信頼”が集客にインパクトした話
私が日系法人の支社長として勤務していた頃の話です。私は家庭サービス関連の会社に勤務していました。支社の運営をする傍ら、現場へ顔を出すのは大切だと考え、よくベトナムのご自宅に訪問してサービス提供をすることがありました。そして、“信頼”が集客に大きく影響を与えたことがいくつもありました。ここでは、その典型例を一つをお伝えします。
“◯◯さん”のレビューは信頼できるわ
Dong Daに住むとあるベトナム人のお客様のご自宅を訪問した時の話。その方は、私たちのサービスを終始、動画と写真におさめていました。最初は「何かの探りかな?」と思いつつも、サービスを提供。ですが、どうやらサービスに満足していただいた様子でした。
というのも、私は帰社後、その方からメッセージが来ていることに気づきました。メッセージには「素敵なサービスをありがとう。Facebookページにあなたのサービスを載せたわ。」とのこと。確認すると、すごい長文で私たちのサービスを紹介してくれていました。
それから数日後、Cau Giayに住むとあるベトナム人のお客様からご依頼がありました。「日本人はいるか?一緒に来てもらいたい。」というメッセージで、私も同行することに。サービス提供が終わると、「これを食べて」とChè(ベトナムのデザート)を差し出されました。その場で食べながら話を聞いていると、どうやらその方は、私のサービスをFacebookページに掲載してくれたDong Daのお客様のお知り合いでした。
その方が言うには、「Dong Daに住むお客様はとても厳しい方で、その人が良いサービスというなら間違いない」ということで依頼をされたそう。ちなみに、Dong Daに住むお客様は舞台役者や映画俳優の方にメイクをする仕事をしていて、その界隈では有名な方でした。ちなみにどちらのお客様もその後、定期的なお客様としてご依頼いただけることになりました。
ハノイの人はよく見ている
他にも私たちが知らないところで、”紹介”されていることが多々ありました。そこで気づいたことがあります。それは、ハノイの人は問い合わせの段階では「◯◯さんから教えてもらった」といったようなことは言わないということです。多くの方がサービス完了後に、
- 「実は◯◯さんの投稿を見て…」
- 「◯◯さんが良いって言ってたから…」
- 「◯◯さんから紹介されて…」
と打ち明けるような話し出しが多かったのです。「いやあ、ハノイの人はよく見ているんだなあ」と感じたのはその時です。レビューに一定の信頼はあるが、自分で体験して本当に良いかどうかがわかるまでは明かさない。このスタンスが、ハノイらしいなと感じました。これはもしかすると私が外国人だからというのも関係があるのかもしれません。ですが、彼ら、彼女らはよく見ています。
※ベトナム人のご家庭に417軒ご訪問して感じたことは、『【体験談】ハノイの家400軒に訪問して分かった住宅事情のリアル』にまとめていますので、よろしければ、お読み下さい。
3. 信頼を集客に変える10の条件
ここでは、条件ごとに、「意味・理論的裏付け・現地/実務での観察ポイント」を含めて『信頼を集客に変える10の条件』を整理します。また、掲載のエビデンスは必ずしも全てがベトナム限定ではありません。ですが、信頼構築・ブランド理論として応用可能な知見を使っています。
条件①:品質と一貫性
商品やサービスが購入者の期待を常に満たすか。あるいは、それ以上を提供できるかどうか。つまり、品質の揺らぎがないことが、消費者の「失望リスク」を下げて信頼感を支える。
-
主なエビデンス
“Sahin et al.”の研究「The Effects of Brand Experiences, Trust and Satisfaction」で、ブランド体験が信頼に正の影響を及ぼし、その信頼が顧客満足を通じてロイヤルティに繋がるという因果モデルが示されています。つまり、良質な体験の繰り返し(=一貫性)は、信頼と忠誠を育みます。
-
現地観察ポイント
製品ロット差異(同一型番での品質変動)、納期精度、使用後クレーム率を複数回購入で確認する。複数チャネル(店舗・EC)で商品の質が揃っているか確認する。
条件②:誠実性と透明性
価格・原材料・プロセス・契約条件や保証内容などを隠さず開示する。そして、ブランドが矛盾のない態度で振る舞う。また、情報漏れや矛盾疑念が信頼を損なうので注意。
-
主なエビデンス
Think with Google のレポート「Brand trust & data privacy in Vietnam」では、ベトナム消費者がブランドに最低限求めるものとして「透明性」「真実性」を挙げており、ブランドは誠実に情報を提供し、プライバシー保護と整合性を示す必要があるとしています。
-
現地観察ポイント
商品の裏ラベル(成分・原産地表記・有効期限など)、契約条件(隠れ手数料・免責条項)、広告と実物の齟齬(写真と実物の違い)をチェック。
条件③:ローカライゼーション
商品パッケージ、プロモーション文言、広告表現、訴求ポイント等を、現地文化・言語・社会観点に適合させる。
-
主なエビデンス
Euromonitor の地元ブランド成長分析「Shifting Consumer Preferences in Vietnam: 2025 Trends Every Business Must Know」では、ベトナムで成功しているローカルブランドは、現地消費者の価値観・使用習慣に密着したマーケティングを駆使している点が共通しています。例えば、ローカル祭事やライフスタイルとの連動キャンペーンを行うことで、消費者との「近さ」「共感」を獲得しています。
-
現地観察ポイント
広告・パッケージがベトナム語か、文化的な象徴(色・モチーフ)を使っているか、プロモーション時期が現地祝祭日と連動しているか、地元インフルエンサー起用かを確認。
条件④:国際性 × ローカル性融合
グローバルブランドとしての品質信頼性や先進性を持つ。また、ローカル適応性(文化・消費者意識・感性)も兼ね備える。つまり、ハイブリッドなポジショニングを持つ。
-
主なエビデンス
Perceived Brand Globalness の研究「The Impact of Perceived Brand Globalness on Consumers’ Purchase Intention」では、消費者がブランドの国際性を高く評価し、それが購入意欲を向上させること、ただし消費者の民族主義傾向が強いとその効果が減弱する点を示しています。すなわち、グローバル性が必ず有利になるわけではなく、ローカル感性とのバランスが鍵です。
-
現地観察ポイント
ブランドロゴ/広告デザインに国際風とローカル風の融合があるか。外国語スローガン+ベトナム語フレーズ併用など。国内市場限定仕様版の展開。
条件⑤: 顧客体験 (CX/オムニチャネル)
店舗体験、オンライン購入体験、配送体験など複数接点での体験が整合性を持つか。ギャップや不整合があると信頼が削がれる。
-
主なエビデンス
Zehir らの研究「The Effects of Brand Communication and Service Quality in Building Brand Loyalty」では、ブランドコミュニケーションとサービス品質がブランド信頼を通じてロイヤルティに影響するという因果モデルを示しており、体験品質が信頼・忠誠を育てるという実証がなされています。
-
現地観察ポイント
店頭接客態度・応対速度、ECサイトの使いやすさ、配送梱包品質・納期遵守率、返品交換対応プロセスのスムーズさ。
条件⑥:口コミ・レビュー
第三者の意見(顧客レビュー・SNSコメントなど)が、ブランド信頼感を補強する役割を果たす。レビューの信用性や質が重要。
-
主なエビデンス
“The Effects of Online Credible Review on Brand Trust Dimensions and Willingness to Buy: Evidence from Vietnam Consumers” は、ベトナム消費者を対象に、信頼できるレビューがブランド信頼に正の影響を与え、それが購買意向を媒介することを示しました。
また、別の研究 “Online reviews on E-commerce platforms in Vietnam: The role of trust in behavioral intention” によれば、レビューの「有用性」が購入意向を最も強く駆動し、その間に信頼が媒介するという結果が得られています(調査対象680人)。
-
現地観察ポイント
レビュー件数・平均評価・ネガティブレビューに対するブランドの返信速度と内容・SNSでの言及数など。
条件⑦:社会的責任 (CSR・倫理性)
ブランドが環境・社会問題に真摯に対応しているか、倫理的な行動をしているか。そして、それが消費者との価値共感が信頼を高める。
-
主なエビデンス
研究 “Act as you preach! Authentic brand purpose versus “woke”” では、ブランドの誠実な目的を示すことが消費者信頼と購入意図にプラス効果を与えることが示されています。ブランドの信用度が高いと、知覚品質・リスク低減・購買意図に良い影響をもたらすという因果も報告されています。
-
現地観察ポイント
ベトナムでのCSR活動の可視性(寄付・地域活動)、環境配慮表示 (エコマークなど)、倫理調達ポリシーの有無。
条件⑧:アフターサービス・保証体制
購入後の保証・修理・返品対応の信頼性、迅速性、透明性。購入者が「もしもの時に見捨てられない」と感じられること。
-
主なエビデンス
Brand Trust and Brand Loyalty の研究では、ブランド信頼がブランドコミットメント・ロイヤルティに正の影響を及ぼすことが示されており、信頼が高ければ顧客は長期顧客になりやすいという因果モデルが確立されています。
-
現地観察ポイント
実際に返品・交換・修理を申請して応答時間を測定、保証書やアフターポリシー文書とその実行性を確認。
条件⑨:ブランドストーリー・コミットメント
ブランドの理念・使命・歴史・変遷を消費者と共有し、共感を誘う。機械的なブランドより“魂”を感じられるブランドが信頼されやすい。
-
主なエビデンス
History Factory の記事 “How Consumer Brands Build Trust Through Heritage” では、ブランドが “ヘリテージ (伝統・由来)” を効果的に使うことで信頼・忠誠・ブランド力を高められると述べています。
-
現地観察ポイント
ブランド紹介ページ・広告にストーリーが明確にあるか、創業バックグラウンド・ミッションが消費者向けに語られているか。
条件⑩:ウェブ安全性・個人情報保護・決済信頼性
ウェブサイト・アプリのセキュリティ (SSL / HTTPS)、プライバシーポリシー表示、決済プラットフォームの信頼性 (クレジット、QR決済、CODなど) が備わっているか。
-
主なエビデンス
Think with Google の「Brand trust & data privacy in Vietnam」では、ブランドが消費者データを安全に扱う姿勢を示すことが信頼基盤になると明確に述べられています。消費者はデータ保護と透明性を最低限期待します
また、Generation Z のオンライン購入意図を調べた研究 “The dual role of online trust: a study of Generation Z through online purchase intentions in Vietnam” では、オンライン信頼が購入意図の媒介要因および調整要因として機能するという結果が出ています。つまり、サイト・プラットフォーム安全性が信頼 → 行動に直結することが示唆されています。
-
現地観察ポイント
URL の https 表示、SSL 証明書有無、プライバシーポリシー明示、決済方法の多様性 (安全オプション) を確認。
4. 成功ブランドのケーススタディ:「信頼 → 集客」への変換
以下は、ベトナムで実践的に「信頼を集客力に変えた」ブランド及び企業の事例です。
AEON Vietnam(流通/小売業)
AEON は「カスタマー・サービス文化」を重視し、従業員教育・顧客理解・接客制度を徹底しています。これらはブランド信頼を醸成し、来店動機を高める要因とされています。また、透明性を重視して社内・従業員向けに業績や計画を定期的に公開し、社員の信頼・コミットメントを高めることで、顧客信頼へ波及させようという動きも報じられています。さらに、AEONはベトナム全国に大規模店舗ネットワークを展開し、利便性・アクセス性の高さを武器に、信頼をもとにした“利便+心理的安心感”を販売戦略の柱に据えています。
これらの要素が、AEON が競合より安定した来店基盤・ロイヤル顧客層を持つための「信頼 → 集客」の実例となっています。
実際、ハノイ市内の AEON MALL は今年も増店し、食品コーナーやフードエリアを中心に多くのベトナム人の集客に成功しています。日本とは異なり、大人も集まる場所として存在しており、AEON MALL の出現により、ベトナム人の生活に大きなインパクトを与えたと言えるほどです。
参考①:Customer service culture at AEON supermarkets in Vietnam
参考②:The key to success for AEON Vietnam
参考③:Analysis of AEON’s market penetration strategy in Vietnam FMCG industry
Khaisilk(失敗例から学ぶ信頼崩壊)
Khaisilk(カイシルク)はかつて「高級シルクブランド」として人気を集めましたが、製造地表示偽装事件(「Made in Vietnam」と偽って中国製品を混合)で大きくブランド信頼を失いました。この事例は、「誠実性・透明性の欠如」が消費者信頼を根底から破壊し、集客力を失う典型例といえます。
このように、成功例・失敗例両面を検討することで、「信頼を集客に変えるとは何か」をより実践視点で理解できます。
参考:Bài học gì sau bê bối Khaisilk?
まとめ:信頼構築は最も強いマーケティング手法である
信頼を中心軸としたブランド戦略は、単なる訴求手法ではありません。それは、“集客コストを低くし、口コミ・紹介を自然発火させるマーケティングモデル” です。そのため、信頼構築が正しく機能すれば、広告費を抑えつつ拡散力を得ることができます。
まず、今回ご紹介した「10の条件」を自社に落とし込む。そして、「現地実証 → 改善」を回す。この過程で、ベトナム市場で「信頼 → 集客 →成長」のサイクルを回せるブランドを構築できます。
MISSION.H は、調査/視察からベトナムのリアルを収集。そして、現地視点でのブランド診断・改善支援を通じて、御社の「ベトナムで信頼されるブランド」作りを伴走支援いたします。ご希望の場合には、お気軽にご相談ください。