【ベトナム進出/移住】成功の鍵は「現地調査」にあり

【ベトナム進出/移住】成功の鍵は「現地調査」にあり

数字だけでは見えないベトナムのリアル

ベトナム進出や移住を考えるとき、多くの方が参考にするのは統計データやインターネット上の情報です。私も駐在員時代、進出前の準備は主にネットやAIリサーチから得た情報に頼っていました。

「経済成長率が高い」「人口ボーナスが続いている」「生活コストは日本の半分以下」など、数字上に表れるデータは確かに魅力的です。

しかし、実際に現地に足を運ぶことが必要です。なぜなら、ビジネスや生活を通じてベトナムを知ると、数字と現場のギャップが大きいことに気付かされたからです。成功には、このギャップを埋める「現地調査」が欠かせません。

本記事では、日本を出て海外へ進出・移住する方に向け、特にベトナム進出における「現地調査」の重要性を解説します。

数字だけでは語れないベトナムの現実

数字は、物差しにするには大変便利です。例えば、比較する時、評価する時、説明する時です。そんな時に、数字はとても有効に働きます。つまり、物事を理解する上で数字は大事な役割を果たすのです。ですが、数字だけではすべてを推し測ることが難しいのも事実です。特に、ベトナムのような後進国でローカルに入るほど、よくわかります。

統計と体感の差

ベトナムの平均賃金や物価の統計を見ると「安い」と思いがちです。日本よりも一つ一つのコストがかからないのも事実です。ですが、思っていた数字、聞いていた数字、ネットの情報とは異なることも多々あります。

駐在員の感覚あるある

  • ハノイって家賃が意外と高くて、東京とあんまり変わらない。
  • 日系レストランや商品だけ他の外資系よりも妙に高いな。
  • 現地のベトナム人ってこの給与でどうやって生活してるんだろう。

この感覚は、ベトナム駐在を始めたての頃に私もよく抱きました。また私のみならず、知人の駐在員もよく感じている感覚です。

どの角度からの情報なのか

日本語で書かれた情報は、駐在員の立場からだけであり、本来のベトナムでのコストが見えていないといったこともあります。つまり、情報が一側面でしか反映されていないということです。本当は知らない情報もたくさんあり、真実性が欠けている場合もよくあります。

  • 外国人だから家賃やサービル料を上げられている。
  • 日本食店が価格を高くしなければならない理由がある。
  • 本当は家賃が2万円もかからない家はたくさんある。

こんなこともローカルに入れば入るほど見えてくる現実です。

文化・慣習による見えないコスト

数字だけでは表れないのが文化的な要因による出費やリスクです。日本では想定できないコストが、ベトナムでは発生します。

ベトナムでよくあるケース

例えば、日本人だけでなくベトナム人に対してもよくあるのが次のようなことです。

  • 様々な理由を後から出され、罰則金を請求される。
  • 手続きスピードを早めるためにかかる別途手数料がある。
  • 担当者で話が毎回変わる。

コスト感や置かれた場面でも随分とストーリーが変わります。そのため、数字で推し測ることができません。ですが、このような文化や慣習による見えないコストは、現地に入れば見えてきます。もちろん観光のような短期スタイルでは見えません。ですが、腰を据えて駐在員として、また決裁を持つ立場としてビジネスをすれば、より細かく見えてきます。

現地調査がもたらすメリット

進出や移住で「現地調査」が成功を左右すると言っても過言ではありません。現地調査がもたらす具体的なメリットをいくつか紹介します。

ビジネス進出におけるメリット

ターゲット顧客の購買行動を実地で確認できる

ベトナムに進出された中小企業の方がよく口にするのは、「ベトナム人をどうやったら集客できるのか?」ということです。理由は「ベトナム人の方が数が多く将来性がある」ためです。この言葉、裏を返せば「ベトナム人を集客できていない日系法人が多い」ということがわかります。では具体的に、どんなターゲット層を狙っているのか。ペルソナはどう設定しているのか。どんな価格で、どんな販路で、そのターゲットにリーチするのか。そもそもそのターゲットは合っているのか。このような設計は、現地で得た具体的な情報でしか確認することができません。現地で得た情報からこそ精度の高い仮説を設定することができます。

公的データに出てこない「生活者目線」の情報を収集できる

私が駐在員時代の頃の話です。2人のベトナム人従業員の家に呼ばれて行ったことがあります。1人の従業員は日本で留学経験があり、ベトナムの中でも裕福な家庭です。家もアッパークラスのエリアにあり、生活にも余裕を感じました。しかし、もう1人の従業員は真逆。外国人がいないエリアで、トタン屋根の平屋の家。さらに、シャッターを開けるとベッドと生活スペースがある4畳ほどの空間。私の会社で働いて、初めて月収 10,000,000VND を超えたと言っていました。

仕事でも、この2人からもらう情報は異なりました。ベトナム人向けのサービスを考案する際も価格の設定の仕方で「ベトナム人がちょうど良い」と思う金額が二人の中では異なっていました。しかし、共通するところもあり、それが金額差への意識でした。つまり、「いくらの差で高いと感じるか」というもの。日本人にはわからないくらいの誤差なのですが、ベトナム人にとってその金額差は非常に大きいものだということに、ちゃんと理解できるまで随分と時間が必要だったことを覚えています。まさに「生活者目線」で情報を得るというのはこういうことだというのを肌で感じることができました。現地でなければ得られない感覚です。

移住希望者におけるメリット

治安や交通渋滞など、環境を実際に体験できる

完全に生活を移す前に、現地を知っておくのと知らないのとでは大きく異なります。ネット情報では、◯◯エリアは治安が悪いと聞いていたが、実際に言ってみると全くそんなことは感じないということもあります。良いマンションだと聞いていたのに、夜でも近くが渋滞して騒音がして煩いといったこともあります。特にお子様がいる家庭だと余計に気になってしまう情報でしょう。

日本人コミュニティやサポート体制の有無を確認できる

ハノイでも様々なところに日本人コミュニティがあります。世界は狭いとはよく言ったもので、◯◯さんが◯◯さんの知り合い?といったことは日常茶飯事です。私が聞いた話では、駐妻コミュニティの中でもヒエラルキーのようなものが存在するというもの。実態はわかりませんが、実際のところ海外まで来てそのような見えない圧があるので、引っ越して環境を変えたという友人もいます。

また、「日系のサービスが受けられるところや病院等が近くにある=日本と同じものが受けられる」という錯覚があるのも事実です。「思っていたのと違う、口コミと違う、実は日系ではなかった」といったことからサポート体制がまったくなかったということも。現地情報を抑えておくのとそうでないのとでは、生活の質が大幅に変わります。

進出における成功するための現地調査のポイント

成功するための現地調査にはポイントがいくつかあります。今回は、ベトナムの現地調査の基本的な項目を抑えていきます。

①発見した「現地調査で上手くいった事例」を紹介

地方中小企業の成功事例(製造/飲食/ITなど)

自粛するおっさんのブログ』では、「現地リサーチ→現地化→スモールスタート」で成功した具体例が複数まとめられています。現地の文化や休暇・人材事情に応じた運用改善も書かれており、実務的な内容ですので、確認してみても良いでしょう。

展示会・商談会+現地調査を組み合わせた事例と手法

ビッグビート』では、展示会参加と並行した店舗視察・競合チェックの重要性を解説しています。展示会は「短時間で市場接点を作る」有効手段として紹介されているため、参考にしてみて下さい。

小売/リテール分野の成功要因

McKinsey & Company』の22ページに渡る報告書では、ベトナム小売成功の共通点(ローカルブランドへの愛着、モダンリテール志向、オムニチャネル対応、ローカル知見の重要性等)が整理されています。調査で把握すべき「購買チャネル」「支払い習慣」「物流課題」について具体的な示唆があるため、面白い内容になっています。

現地ヒアリングの報告レポート

JETRO』では、ヒアリングに基づき、「現地パートナー」「法規・手続き」「競争環境の変化」等、調査で必ず確認すべき項目を提示しています。現場ヒアリングを元にした政策・実務情報が豊富なため、気になるものをピックアップして確認すると良いでしょう。

確認すべきポイント

上の事例群から読み取れる共通点は、(A)「現地での定性調査(インタビュー、試食、ミステリーショッピング)」 →(B)「小さな実証(ポップアップ・限定販売)」→(C)「改善・拡大」という順序が成功確率を高めている点です。これらは McKinsey や JETRO の示す“ローカル知見の重要性”とも合致します。

②成功するための現地調査のポイント(実務的・詳細版)

以下は「現地で実行する調査の設計〜実行〜拡大」までの現場で使えるチェックリスト付き手順です。各ポイントに「具体的な手順」「現場での注意点」「参考事例/根拠」を付けています。もちろん。業態・業種・規模によっても進め方は異なりますが、参考にしてください。

1)調査設計(目的と仮説を明確にする)

  • やること
    進出目的(販路拡大・生産移管・ブランド浸透 等)を数値目標に落とす(例:初年度の売上ターゲット、想定顧客層)。
  • なぜ重要か
    データ収集の軸がブレると「ノイズ」を大量に拾い、意思決定が遅れる。JETROのヒアリングでは「目的不明確で手戻りが多い」事例が多く挙げられているのもそのためです。
  • 実務TIP
    KPI(価格感度、来店頻度、注文単価、決済手段比率)を先に決め、調査設問を逆引きで設計すること。

2)デスク(既存データ)+定量調査の組合せ

  • やること
    JETRO・業界レポート・公的統計(人口、所得層、チャネル別売上)等を先に集め、仮説をチューニング。次に簡易アンケート(オンラインや街頭等)で定量値を確認する。

  • 実務TIP
    小売では「支払い手段」や「配送受け取り習慣」が事業性に直結するため、数値で確認する。ちなみに、McKinseyはベトナムでの支払い・物流特性を成功要因に挙げています。

3)現地フィールド(ミステリーショッピング/店舗巡回)

  • やること
    ターゲット商圏内での競合の棚割・価格・来客層・陳列・営業時間を記録。写真・短動画を残す。展示会や商談会で短期間に多くの競合や来場者に触れるのも有効です。

  • 実務TIP
    写真とタイムスタンプでエビデンスを残し、後で現地チームと「事実合わせ」する。現場で得た“感覚”は定量で裏取りする。

4)消費者インタビュー(深掘り)とプロトタイプ検証

  • やること
    ターゲット顧客(想定ユーザー)10〜30名に対して、半構造化インタビュー(10〜20分)を実施。商品・価格・配達方法・支払い受容性等をヒアリング。

  • なぜ効くか
    自粛するおっさんのブログのラーメン店事例のように「味の微調整(少し甘め、香草の選択)」など、定量では出ない嗜好差を発見できるからです。

  • 実務TIP
    インタビューは「現場で食べてもらう」など体験型にして反応を取り、なるべく動画で保存する。

5)パイロット(小規模実証)で“販売トライアル”

  • やること
    ポップアップ、イベント出店、モール内の期間限定店、ECでのテスト販売など、まずは「小さく売って」みる。そして、結果(売上、リピート、SNS反応)で仮説を検証します。とにかく、“テスト→スケール”が大切です。

  • 実務TIP
    ポップアップは最低限の在庫で回す。メニュー、価格、導線についてなど、顧客のコメントを即改良に回す。

6)ローカルパートナー/サプライヤー精査(オンサイト監査)

  • やること
    流通・物流・製造パートナー候補は工場・倉庫・会計・法務を現地でチェック。契約前に3者訪問レポートを作るのも一つです。信頼できるパートナー確保は、どこでも言われますが、海外進出では重要な要素の一つです。

  • 実務TIP
    現地パートナーの「代替候補」を最低1社は確保する。決済条件や納期厳守の実績を第三者に確認するのも良いでしょう。

7)オペレーション(インフラ/コスト検証)

  • やること
    電力・水道・冷凍設備・停電頻度・配送ラストワンマイル(通勤・渋滞)を検証。小売/飲食では利益率を左右するポイントです。McKinseyは、物流・ラストマイルの課題を小売成功の主要要因に挙げています。

  • 実務TIP
    例えば、「現地で仕入れ→冷蔵→配送」を一つのフローで試してみる(実際の配送時間と品質を確認)。

8)価格設定と決済設計(ローカライズ)

  • やること
    現地競合価格帯を基に「現地価格レンジ」を設定し、支払い方法(現金、QR、COD、カード)を決める。支払い習慣(現金の多さ)は重要で、決済対応が売上に直結します。

  • 実務TIP
    高価格帯で勝負するなら「日本品質」を数値で説明できる資料(検査データ、サービス訴求)を準備する。

9)人材と文化(HR調査)

  • やること
    現地従業員の労働慣習、祝祭日(旧正月/Tet)の長期休暇、退職理由の傾向、昇給タイミング等を現場ヒアリングで把握。自粛するおっさんのブログでも触れていますが、「家族行事優先」といった日本にはない要素が人材定着施策につながることも。

  • 実務TIP
    ローカルのHRポリシー(ボーナス、家族手当、祝祭日対応)を最初から織り込むと離職リスクが下がる。

10)リスク管理(シナリオ策定・撤退ライン)

  • やること
    為替ショック・輸入規制・物流障害などでの影響を想定した複数シナリオ(ベスト/ベース/ワースト)を作る。撤退条件(資金残高・期間・KPI未達)を事前に決める。進出開始前に、「撤退ラインを持つ」ことを強く推奨します。

  • 実務TIP
    契約書に最低保証期間や解約条項を入れてリスクを限定する。現地弁護士のレビューは必須です。

具体的に使える:現地調査チェック項目サンプル

  • 調査目的(KPI)を記入
  • ターゲット層(年齢/所得/チャネルなど)を記入
  • 収集すべき定量データ:家賃相場/人件費単価/主要競合の価格帯/支払い方法比率
  • フィールド観察項目:競合店写真(棚割)/来客属性(年齢層)/回転率/店外行列の有無
  • 消費者インタビュー設問(5問)
    例:①購入頻度 ②許容価格 ③決済方法 ④改善してほしい点 ⑤評価理由
  • パートナー監査項目:法人登記確認/納品実績/財務状況(過去2年)/品質管理体制
  • オペレーション検証:停電頻度/バックアップ電源の有無/配送到着時間/廃棄率
  • HRチェック:祝祭日休暇ルール/平均離職率/採用チャネル/教育研修の有無

※注意点

  • 財務状況等の内部情報は、入手困難または偽情報も多いので可能な範囲で留まることがあります。また、現地調査のポイントは進出業界によっても異なります。そのため、あくまでこれらは参考とし、自社の業界で必要な項目を精査し、現地調査に活かして下さい。

現地調査こそがリスク回避・そして、成功の最短ルート

データ(数字)だけで意思決定すると「現場リスク」や「数字では見えない情報」を見落とします。つまり、ベトナム進出・移住を成功させるためには、統計データやネット情報だけでは不十分です。数字と現場の差を埋めるために、現地調査を行うことが最大のリスク回避策であり、成功への最短ルートです。

また、現地調査は「仮説検証のループ(観察→インタビュー→小規模実験→改善)」を高速で回すことが肝です。これが成功確率を大きく上げると断言できます。MISSION.Hでは、法人向けの市場調査から、個人向けの生活視察サポートまで、ベトナムに特化した「現場のリアル情報」を提供、意思決定を支援しています。意思決定に迷いがある場合には、いつでもご連絡ください。

「数字では見えないリスク」を把握し、成功するベトナム進出・移住を実現しましょう。

その他、現地調査に関する記事は以下をご参考に。