【現地情報】ベトナムの労働契約解除の流れ|退職手続きと注意点

【現地情報】ベトナムの労働契約解除の流れ|退職手続きと注意点

はじめに

ベトナムでの労働契約の解除や退職は、日本とは法的・実務的に大きく異なります。駐在員や現地採用者、あるいは企業側が契約解除を考える際には、「通知期間契約終了事由清算手続き」などのルールを事前に理解しておくことが不可欠です。

今回の記事では、ベトナム労働法をもとに契約解除の各ステップ、企業側と労働者側が注意すべきポイントを整理。また、私の体験談として即日解雇した体験談を赤裸々に解説します。

参考:Chinhphu.vn

労働契約が終了する主な理由

ベトナム労働法第34条では、労働契約が終了するケースが13項目にわたって定められています。主な内容を整理すると、次のようになります。

  • 契約期間の満了
    有期労働契約が定められた期限を迎えた場合。
  • 特定業務の完了
    契約で定められた仕事が完了した時点で契約は終了。
  • 労使双方の合意による終了
    労働者と雇用主が話し合い、合意のうえで契約を終了。
  • 懲戒解雇・重大な規律違反
    労働者が重大な規律違反をした場合。
  • 外国人労働者の労働許可証が失効した場合
    期限切れや取り消しにより、外国人が合法的に働けなくなった場合。
  • 労働者または雇用主の事情による終了
    労働者が死亡・行方不明になった場合。法的に無能力と認められた場合。刑事処分(懲役・国外追放など)を受けた場合。
  • 試用期間に関する終了
    試用で不合格になった場合。あるいは、労働者が試用を途中でやめる場合。

これらはすべて「第34条(1)~(13)」に明記されている正規の終了事由です。企業側も労働者側も、契約終了を行う際には、この法律の根拠に基づく必要があります。

労働者による「退職/契約の一方的解除」の手続き

ベトナム労働法第35条によると、労働者が自ら契約を解消する場合、通知期間を守る必要があります。通知期間が守られないと、不当な一方的解除と見なされ、法的・金銭的なリスクを伴います。

無期契約:45日以上の事前通知が必要
有期契約(12〜36か月):30日以上の事前通知が必要
有期契約(12か月未満):3営業日以上の通知が一般的

通知なしで退職できる例外

以下のようなケースでは、通知なしで即時に退職を申し出ることが法的に許可される場合があります。

  • 雇用主が契約で約束した職務や勤務地を提供していない。
  • 給与が支払われない。または、遅延が常態化している。
  • ハラスメントや強制労働、性的嫌がらせなどがあった。
  • 妊娠によって続けるのが危険と医師が判断した場合。
  • 雇用時に提供された情報が明らかに虚偽だったことが後に判明した場合。

ただし、即時退職を正当化する事由があるという事実を示す必要があります。でなければ、不当な退職として法的・金銭的な責任を問われることがあります。

会社側による一方的な解雇・契約解除

企業が労働契約を解除する場合にも、法的な根拠と適切な手続きが求められます。ベトナム労働法第36条には、合理的な解雇理由事前の通知・協議が必要であることが定められています。

解雇が認められる主な理由例

  • 業務を遂行できない、または職務評価の基準を繰り返し満たさない場合。
  • 長期間の病気や事故で継続的に働けない状況が続いた場合(契約の種類に応じた期間)。
  • 企業の構造変更やリストラにより雇用継続が不可能な場合。
  • 労働者が無断欠勤を続けるなど、正当な理由なしに一定期間出勤しない場合。
  • 契約締結時に虚偽の情報を提供したことが判明した場合。

手続き上のポイント

解雇前に改善の機会を与えること、また、書面による警告や協議を実施することです。通知期間としては、無期契約は45日有期契約は30日(12か月未満の場合は3営業日)など、契約の種類に応じた通知が必要です。手続きを怠った解雇は「不当解雇」とされ、従業員の復職や補償、罰則請求のリスクがあります。

契約解除後の清算と退職金・未払金の支払期限(第48条/第45条)

ベトナム労働法第45条及び48条によれば、契約が終了した後、企業は14営業日以内に労働者との金銭および福利の清算を行う必要があります。特定の事情がある場合、この清算期間を30日以内まで延長できます。

主な清算項目

  • 最終月の未払い給与、残業代、手当
  • 未消化の年次休暇の精算
  • 社会保険・健康保険・失業保険の精算手続き
  • 退職金

12か月以上勤務した従業員には、1年につき0.5か月分の平均給与が支給されます。その場合、基本的には最後6か月の平均給与を基準に算出します。

特記事項

解雇や退職の理由・手続きによって、退職金の給付条件や金額が変動する場合があります。また、外国人駐在員は、ワークパーミットや滞在資格の終了・更新手続き、帰国に伴う住居・税務手続きも含めて確認しておきましょう。

【体験談】即日解雇の罰則金と対処方法

私が駐在員としてベトナムで勤務していた頃、実際に「即日解雇」をせざるを得なかったケースがありました。対象となったのは、日本から採用して現地に連れてきたベトナム人スタッフ。解雇を決断するまでに至った主な理由は以下の通り。

  • 常習的な30分以上の遅刻
  • 無断欠勤(1回につき3〜4日間、計2回)
  • 業務中に4時間以上ネットショッピングや映画視聴を繰り返すなどの職務怠慢
  • 業務依頼に対する度重なる遅延
  • クライアント訪問先でのブランド毀損行為

会社としては、ただ一方的に解雇するのではなく、段階的な指導・処分を行っていました。具体的には、4回の面談と、2度の減給処罰。そして最終面談では「次に遅刻した場合は即日解雇とする」と明確に伝えていました。

しかし、面談実施日の翌日に1時間以上の遅刻が発生。予告通り即日解雇を通知。ところが後日、そのスタッフが会社が契約しているローカル弁護士に相談し、「不当解雇された」と会社に申し立てをしてきました。ベトナム労働法では、即日解雇は原則として禁止されているため、法的に争うリスクがあったのです。

最終的に、会社側が「即日解雇した月の給与1か月分を支払う」代わりに、本人に「自主退職届を提出させる」という形で合意し、事案を収束させました。

学び

  • ベトナムでは「即日解雇」は後で不当解雇と争われるリスクが高い。
  • 会社側が法的手続きを無視すると、時間とコストを余計に消耗する。
  • 実務的には「退職届を書いてもらう」ことで折り合いをつけるケースが多い。

結果としては当該月1ヶ月分のみで解決したのは良かったものの、他にも様々な経験をしているため、情報を追加するとすれば、

  • 日本での生活や就労経験のあるベトナム人には、法令遵守以外でも特別注意が必要。
  • ベトナムローカル法人がやっているようなやり方はは日系法人ではすべきでない。

ということです。この2点は、なにも労働契約だけに限った話ではありません。様々な部分で注意して業務に取り組むようにしてください。

実務上のポイントとトラブル回避策(駐在員/日系企業向け)

以下は、実際に駐在員や日系企業が直面しやすいトラブルや注意点と、その対策です。

退職通知後の対応が遅れて進まない

テト前後や大型連休の影響で、人事処理が滞ったり、社内承認が進まないことがあります。通知は必ず書面(メールやZalo含む)で行い、受領の確認を取得。通知から契約終了までの余裕を持ったスケジューリングを行いましょう。

退職金や未払給与の清算が遅れる

手続きの認識ずれや企業側の事務処理の遅れがあります。退職時にチェックリストを使い、清算項目・貸与物・未処理タスクを整理して確認しましょう。書面の合意をとっておくことが大切です。

駐在員のビザ/住居/税の整理が不十分

労働契約解除だけで帰国準備を終えたと誤認し、関連手続きを忘れることがあります。ワークパーミット、居住証明、税務処理、住居契約の解約まで含めた退職後のスケジュールを作成しておきましょう。

解雇の手続きを省略し無効とされた

正当な理由や通知がなく、形式的な解雇手続きが省かれるということがあります。解雇を行う場合は改善機会の提示警告文書協議の記録を残し、通知期間を遵守してください。

労働者が通知なしに即時辞職し、不当退職扱いになる

会社の対応に不満がある場合に感情的に辞めた結果、不利益を被ることがあります。即時退職を主張する場合でも、正当な理由と証拠を明確にした上で通知し、可能であれば弁護士に相談して下さい。

おわりに

ベトナムの労働契約解除や退職には、「通知期間、正当な理由・手続き、清算・退職金」といった法的ルールの理解が不可欠です。これらを怠ると、「不当解雇」「未払い金の請求」「不当退職による補償の喪失」など、法的・金銭的リスクに直結します。

駐在員や日系企業の場合、契約解除だけでなく「ワークパーミット/ビザ/住居/税金」といった一連の整理も見落としがちです。そのため、契約解除を検討する際には、事前のスケジュール整理と法務・人事の専門家による確認が極めて重要となります。

もちろん理想は、労働者が意欲的かつ積極的に働き、会社の方針と本人の目標が合致すること。双方に利益がもたらされる環境をつくるためにも、組織の仕組み化やブランディングは欠かせません。

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その他、ベトナムの労働契約に関する記事は以下を参照ください。