
【現地情報】ベトナム進出に必須|労働契約の種類と注意点
はじめに(ベトナム進出・現地採用の実務に直結)
ベトナムで法人を設立・運営する際に必ず直面するのが「労働契約」の締結です。特に駐在員や現地採用スタッフを雇用する際には、労働法に基づいた契約形態を理解しておくことが不可欠です。
本記事では、ベトナム労働法に定められた契約の種類を整理しつつ、実務上で日本企業が注意すべき点についても解説。また、実際に私も普段から気をつけている点についてもシェアしていきます。
参考法令:ベトナム労働法 2019年 第45号法律|Bộ luật Lao động 2019
*本記事は、2025年9月時点の法令に基づき、一次情報(政府公表法令/現地専門サイト)を確認のうえ作成。
労働契約の定義と形式(第13条・第14条)
定義(第13条)
労働契約は、有償の仕事・賃金・労働条件・当事者の権利義務を合意したもの。
形式(第14条)
原則は書面。また、電子契約も書面と同等とされる。例外として、契約期間が1か月未満なら口頭契約も可。
ただし未成年(15歳未満)・家事労働者・グループ委任での季節/一定業務などは書面が必須となる。
実務TIP
監査や労務申請ではベトナム語版の提示を求められるのが通例です。そのため、二言語(ベトナム語+日本語/英語)で作成し、優先言語を定めるのが安全です(法は言語を明示義務化していません)。
参考:VIETNAM LAW&LEGAL FORUM
労働契約の種類(第20条)
有期契約と無期契約
- 無期契約:期間の定めなし。
- 有期契約:最長36か月。
契約更新ルール
契約満了後、30日以内に新契約を結ばないまま就労継続した場合、無期に自動切替となる。
新たに有期で結ぶ場合も更新は1回までで、2回目以降は無期扱いとなる。
実務TIP
更新の打診は満了前に必ず書面で行います。また、更新回数を誤ると無期化され、解雇が極めて困難になります。そのため、更新回数と有期契約の期限には注意して下さい。
試用(第24条〜第26条)
契約の位置づけ(第24条)
試用は「試用契約」として単独締結が可能です。また、本契約に試用条項を入れる形でも可能です。ですが、1か月未満の労働契約には試用を適用しません(=いきなり本採用契約)。
参考:THƯ VIỆN PHÁP LUẬT
試用期間の上限(第25条)
通常、試用期間は1〜2ヶ月で設定します。職務により最大設定可能期間が異なるため、以下を参照下さい。
- 管理職・経営層:最大180日
- 高等専門職(大卒等):最大60日
- 中等専門・技能職:最大30日
- その他の職務:最大6日
- 同一職務の試用は1回のみ。
試用中の賃金(第26条)
試用賃金は当事者合意ですが、本給与の85%以上が法定下限です。無給や極端に低額は違法となります。
参考:THƯ VIỆN PHÁP LUẬT
実務TIP
試用を本契約に内包する場合、社会保険の適用起算や試用満了時の自動本採用化/不採用通知の扱いを就業規程で明確化してください。ちなみに私の場合は、試用は「試用契約」として単独締結しています。
参考:THƯ VIỆN PHÁP LUẬT
契約終了の事由(第34条)
ベトナム労働法では、労働契約を終了できるケースが具体的に列挙されおり、代表的なものは以下のとおりです。
- 契約満了:有期契約が終了したとき。
- 合意解約:労使双方が合意して終了する場合。
- 一方的解除:法律で認められた事由があるとき、労働者または使用者が一方的に解約できる場合。
- 懲戒解雇:重大な規律違反があった場合。
- 労働許可証の失効:外国人の場合、許可証が切れると契約も終了。
- 死亡や行方不明:労働者が亡くなったり、行方不明と認定された場合。
実務TIP
契約終了は「ただ辞めさせればいい」「辞めればいい」では済みません。法律上、以下の手続きを守る必要があります。
- 事前通知:解雇や一方的解除を行う場合、決められた日数前に書面通知が必要。
- 手続き遵守:会社側の手続きミスがあると「不当解雇」と判断されるリスクあり。
- 退職金・未払い清算:退職金、未払い給与、有給休暇の精算は必ず行わなければならない。
つまり、「どの事由で契約を終えるのか」を明確にし、その後の手続きを正しく進めることが、トラブル回避のカギとなります。
外国人労働者の特則(第151条・第152条)
労働許可証との連動
外国人雇用には、適法な労働許可証(WP)が原則必要となります。また、労働契約の期間はWPの有効期間を超えることはできません(例:WP 2年 ⇒ 契約も最長2年)。
実務TIP
WP更新手続の遅延が起こると、契約更新ができなかったり、就労停止のリスクが高まります。また、「有期1回更新ルール」と「WP満了」の時期が重なる設計ミスに注意して下さい。
社会保険・医療保険・失業保険の加入義務【適用根拠は別法】
ベトナムでは、労働契約を締結すると同時に 社会保険(BHXH)・医療保険(BHYT)・失業保険(BHTN) への加入義務が発生します。この点は労働法ではなく、社会保険法および関連政令に基づいています。
各種保険について
1. 社会保険(BHXH)
労働者の「老齢年金・遺族年金・労災補償・疾病休暇・産休」などをカバーする制度です。ベトナム人労働者は、労働契約を結んだ時点で原則的に強制加入となります。
2. 医療保険(BHYT)
労働者の医療費負担を軽減する保険です。契約者は国の指定医療機関で治療を受ける際に保険適用を受けられます。
3. 失業保険(BHTN)
有期契約(3か月以上)または無期契約の労働者が対象です。失業時に一定の給付金が支給され、職業紹介や再就職支援も受けられます。
外国人労働者への適用
外国人労働者については、「政令143/2018/ND-CP」で社会保険の適用が明確化されています。
- 適用対象
労働許可証(WP)を有し、12か月以上の労働契約を締結している外国人。 - 保険の種類
当初は医療保険・失業保険は対象外でしたが、現在は社会保険の一部項目(老齢年金・遺族年金など)についても適用されています。 - 免除ケース
外国とベトナムの間で社会保険協定(二重負担防止条約)が結ばれている場合、その外国人はベトナムの社会保険加入を免除されることがあります(例:2022年に発効した日越社会保障協定により、日本の社会保険に加入している駐在員は、ベトナム側の社会保険加入が免除)。
実務TIP
- 採用時点で即加入
契約を結んだその月から、社会保険の加入手続きが必要です。遅延すると企業側に罰金リスクがあります。 - 給与計算への影響
会社・労働者双方が保険料を負担(労使折半)するため、給与設計時に考慮が必要です。労働者には手取り額を明確に伝えてください。 - 外国人雇用のケース
WPの期限や社会保険協定の有無によって加入義務が変わるため、事前確認を行って下さい。
よくある誤解と落とし穴(実務チェックリスト)
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言語要件
法律上「ベトナム語必須」との明文はありません。ただし、監督当局・紛争ではベトナム語資料が前提です。そのため、二言語+優先言語条項が安全です。 -
短期契約の概念
2019法では季節・短期の独立類型は廃止されています。「無期/有期(≤36か月)」の2類型に統一されています。 -
更新カウント漏れ
1回超の有期更新は、無期化されます。満了前通知と30日ルールの管理を徹底して下さい。 -
1か月未満の扱い
口頭契約・試用なしの特例です。ですが、記録性・紛争予防の観点から短期でも書面化は推奨します。
ひな形作成の実務ポイント
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必須記載事項
次の内容を記載必須と捉えて下さい。
・職務
・勤務地
・労働時間
・賃金内訳
・手当
・試用条項
・保険
・内部規程参照
・懲戒/賠償
・終了/通知
・紛争解決 -
言語
なるべく二言語表記し、ベトナム語を優先条項として下さい。 -
試用
試用条項は期間・評価方法・満了時の処理(本採用/不採用通知方法)を明記すると良いでしょう。 -
更新
更新管理は台帳化(満了日・通知期限・“更新1回まで”のカウンタ)すると忘れません。
おわりに
企業の契約実務や紛争対応に直結する「法律判断」としては、ローカルや日系の弁護士事務所の確認が必須です。すべてをご自身では行わず、プロに依頼することが得策です。
気をつけるべき点は様々にありますが、実務で経験を積めば難しいことはありません。ですが、日本とは異なる点があったり、ベトナム語での契約となると不安になる方も多いでしょう。
MISSION.Hでは、ベトナムでの労働契約の作成や実務上のサポートも可能です。気になる点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
その他、ベトナムの労働法やその他契約に関する記事は以下も参考にお読み下さい。