【ベトナム進出/移住】土地使用権|建物設置時の基礎知識

【ベトナム進出/移住】土地使用権|建物設置時の基礎知識

ベトナムにおける土地の所有権は、外国人・外国企業には一切認められていません。代わりに与えられるのが「土地使用権」です。これは、日系企業が工場や店舗、オフィスなどを構える際の重要な法的基盤です。

今回は、ベトナムで事業を行う際に必ず押さえておきたい「土地使用権」について、基本から実務上の注意点まで、わかりやすく解説します。

ベトナムの「土地使用権」とは?

ベトナムの土地制度は、土地は全国民の所有物であり、国家がその代表として一元的に管理するという憲法上の原則に基づいています。そのため、個人や法人が土地を「所有」することはできません。代わりに、国から一定の期間、土地を「使用する権利」が与えられます。これが、「土地使用権」です。

「土地使用権」の主な特徴

  1. 所有権ではない

    あくまで使用する権利であり、土地そのものの所有権は国にあります。

  2. 期間が定められている

    工業団地の土地であれば、通常50年などと定められています。ただし、住宅用の土地には期限が定められていない場合もあります。

  3. 譲渡・売買が可能

    土地使用権は譲渡や売買、担保設定の対象となります。このため、実質的には不動産取引と似たような形で行われます。

  4. 証書の発行

    土地使用権を取得すると、「土地使用権、住宅および土地に付随する資産所有権の証明書」という証書(通称「レッドブック」や「ピンクブック」)が発行されます。

共産主義国との共通点

国家や集団による所有

ベトナムの土地使用権制度は、社会主義・共産主義国に共通する特徴を強く持っています。

多くの共産主義国では、生産手段である土地を私有化することを否定し、国家や集団による所有を原則としてきました。そのため、個人が土地を所有するのではなく、国から土地を借りて使用するという形態が一般的です。

他の共産主義国

例えば、ベトナムと同様の共産主義国である中国キューバでも、土地の所有権は国や集団にあり、個人や法人は土地を借りて使用する「土地使用権」を取得する制度が採用されています。

このような制度は、国家が土地利用を計画的に管理し、公共の利益を優先する目的で導入されています。しかし、近年では経済の市場化に伴い、土地使用権の権利内容が拡充され、実質的な不動産取引が活発に行われています。

外国人・外国企業が取得できる土地使用権の種類

A. 国から直接取得(国家割当)

・ベトナム政府と直接契約して使用権を取得する方式
・主に大規模な製造業やインフラ系プロジェクト向け
・土地賃料の支払い、使用期間の明記が必要

B. 土地使用権者から譲渡を受ける

・すでに使用権を有しているベトナム企業などから譲渡を受ける形式
・商業施設や店舗、サービス業でよく利用される
・譲渡契約は公証・登録が必要

使用期間と延長の考え方

  • 最長期間は50年間(特定条件下で70年)
  • 契約満了前に延長手続きが可能だが、審査がある
  • 商業施設や飲食店舗の場合、20年~30年契約が一般的

このように期間があるため、投資する企業は回収期間を吟味する必要があります。例えば、ベトナムでは建設過程に遅れることが多く、投資回収期間が想定よりも短くなることがあります。そのため、使用期間は利益回収に大きく関わる問題のため、注意が必要です。

工場・商業施設・飲食店の進出時に確認すべきポイント

土地用途の確認

商業・工業・住宅用途などが指定されており、用途外の使用は違法です
(例)住宅用地にレストランを設置するのは不可

建築許可との連動

土地使用権の種類によっては建物の新築や改築に許可が必要です。
(例)工場設置や大型店舗建設時には「建築許可証」の取得も必須

土地使用権の期間と投資回収期間

例えば、ある企業がある土地の上に商業施設を建てたとします。その後、土地使用権の期間が終了したとします。この場合、その土地の上に建てた商業施設がどうなるかは、その時の制度や契約内容によって異なります。そして、一般的には、以下の2つのケースがあります。

土地使用権の更新

使用期間が終了する前に、使用権の更新手続きを行うことが可能です。

  • 更新の可否:契約や法律で更新が可能と定められている場合、地代などを支払って契約延長が可能です。
  • 更新の不認可:公共事業などでその土地が必要になる場合など、更新が認められないこともあります。

ベトナムでは、一般的に土地使用権の更新は認められています。そのため、実質的に半永久的に土地を利用できる仕組みになっています。ですが、法律と実態に差があり、認可を降ろさない場合もあります。

契約終了後の資産の扱い

更新が認められず、契約が終了した場合、その土地上の建物や設備がどうなるかは、契約内容によって詳細が定められます。

  • 無償で国に引き渡す
    最も一般的なケースです。土地使用権の契約に、期間終了後は建物や設備を無償で国に引き渡す旨が明記されていることが多いです。
  • 建物の撤去
    契約で、使用者が自身の費用で建物を解体・撤去し、更地にして返還することが義務付けられている場合もあります。
  • 売却/補償
    例外的に、政府が建物を買い取る、あるいは何らかの補償を行うケースもありますが、これは稀です。

土地使用権制度下では、建物の所有権と土地の利用権が分離して考えられます。しかし、土地使用権が消滅すれば、建物もその機能を失うため、多くの場合、国が定めたルールに従います。

投資回収期間

そう考えると、ベトナム国側のデメリットがいかに低いかがわかります。他方、企業側は使用期間と投資回収期間を考慮しなければ、大きな損失を被る可能性もあります。ですが、それでも現在は外国企業からのベトナムへの投資がとても活発です。

理由は、ベトナムの経済成長が著しく、十分な利益回収が見込まれているからです。利益回収期間を可能な限り緻密に組んだ後に投資をすることは、ベトナム進出の成功確率を大きく上げることに繋がります。

おわりに

ベトナムでの進出や移住において、土地の使用権は「事業の根幹」に関わる極めて重要なポイントです。特に、工場・オフィス・店舗など物理的拠点を構える場合には、土地使用権の内容を深く理解しておくことが、事業リスクの最小化と長期的な成長戦略に直結します。

どのエリアの拠点を抑えるべきか、どのような展望が期待できるか、実際の現場をよく知る必要があるでしょう。MISSION.Hでは、現地調査を中心としたサポートで、あなたのベトナム進出の意思決定を支援します。