路上販売に勤しむハノイ女性

【現地情報】2025年版:ベトナムの最低賃金とハノイの実態

はじめに

ベトナムは、アジアの中でも安定した経済成長を続ける国の一つです。近年、観光客数の増加だけでなく日本企業の進出先として注目を集めています。進出に際して重要なポイントの一つが、「最低賃金」とその実態です。今回はベトナムの最低賃金制度とそれに関わる労働法の要点、そして実態をまとめてご紹介します。

最低賃金の地域区分と金額

ベトナムの最低賃金は、全国一律ではなく地域ごとに4区分に分かれて設定されています。”Nghị định 74/2024/NĐ-CP”に基づき、現在は以下のようになっています。

ハノイ市中心部、ホーチミン市中心部(地域Ⅰ)
最低月給:4,960,000 VND(約27,280円) 最低時給:23,800 VND(約131円)

ダナン市、ハノイ郊外、ホーチミン市郊外(地域Ⅱ)
最低月給:4,410,000 VND(約24,255円) 最低時給:21,200 VND(約117円)

ハイフォン、カントーなどの地方都市(地域Ⅲ)
最低月給:3,860,000 VND(約21,230円) 最低時給:18,600 VND(約102円)

農村地域などその他の地方(地域Ⅳ)
最低月給:3,450,000 VND(約18,975円) 最低時給:16,600 VND(約91円)

※これらの金額はあくまで最低月給と時給で、残業・深夜・休日手当は別途支給されます。

ベトナム法令本文より抜粋した最低賃金表
ベトナム法令本文より抜粋した最低賃金表

最低賃金に含まれないもの

手当や補助は、最低賃金の計算には含まれません。

・通勤手当
・昼食手当
・住宅手当
・結婚・出産・葬儀手当
・成果報酬(インセンティブ)など

つまり、これらを含めて支給していても、基本給が最低賃金を下回る場合は違法とみなされますので注意が必要です。

ベトナム労働法の基本ポイント(2025年版)

次の内容は、雇用契約や人事労務管理において重要なポイントです。

1. 労働契約の種類

・有期契約(最大36か月)
・無期契約
・労働契約は書面での締結が原則(例外は短期バイトなど)

2. 試用期間

・高度人材:最長180日
・専門職:最長60日
・一般職:最長30日
・試用期間中の給与は、正式給与の85%以上
※早期退職の可能性もあるため、使用期間中は社会保険に加入させないのが無難です。

3. 労働時間と休憩

・週48時間(1日8時間×週6日)以内
・週1日の休みは法定義務
・昼休憩は少なくとも30分以上

4. 有給休暇

・フルタイム:年間12日以上(勤続年数に応じて加算)

5. 保険加入の義務

企業は従業員に対し、以下の3種の社会保険を支払う義務があります。
・社会保険:企業負担(17.5%) 労働者負担(8%)
・医療保険:企業負担(3%) 労働者負担(1.5%)
・雇用保険:企業負担(1%) 労働者負担(1%)

つまり、企業側の負担は21.5%、労働者側の負担は10.5%です。

6. 違反時の罰則

違法な労働契約、不当解雇、社会保険未納などが発覚した場合、以下のような罰則が課されます。
・罰金:最大1億VND(約60万円)
・事業停止処分
・過去の未納保険の追徴+延滞利息

特に政府機関が集中している首都のハノイは、違反行為への罰則金は厳しいため、注意が必要です。

実態①:各情報の更新頻度

ベトナムは現在、著しいペースで経済成長を遂げています。ネット上に落ちている各情報では、ベトナム経済の成長の停滞が見られるような記事もあります。ですが、それらは実態を掴めていません。

今回紹介した情報は、2024年7月1日付けで決定された法令に基づき定められたものです。しかし、ベトナムでは法令ですら1年に1回以上のペースで更新されます。

そのため、正確な情報をいち早く的確に抑える必要があります。過去の流れから、次回の最低賃金等を含めた「労働法」の改正は、2025年7月1日付けで行われると予想されます。政府中央機関の一つである労働・傷病兵・社会省(MoLISA)の公式発表をお確かめ下さい。

実態②:支給額(ハノイ)

日本では最低賃金を参考にして、従業員の給与を決定する企業も多く存在します。なぜなら、日本ではデータがある程度は正確だからです。日本の最低賃金は、収集されたできるだけ正確なデータに基づいていて設定されています。そのため、企業側も最低賃金を元にして従業員の給与設定を行うことができます。

しかし、ベトナムは違います。さまざまな「見えないお金」の動きが蔓延しています。そのため、ネット上のデータや最低賃金から従業員の給与を設定することは難しいのが実情です。別記事で実際の物価をまとめておきますが、今回は支給額の実態をご紹介します。私はハノイにいるため、ハノイの実態と捉えて参考にしてください。

30歳以下のハノイ市の若者層の場合
最低月給の目安:9,000,000 VND(試用期間中の月給:8,500,000 VND)
最低時給の目安:28,000 VND

正直、この月給が最低支給ラインと考えて下さい。この数字で雇用するのもなかなか至難レベルですが、上手く企業側のブランディングができていれば、可能です。

さらに、従業員を雇用する際の役立つプチ情報を、以下に記載しておきます。
・若年層よりも高齢層(50歳代〜)の方が、低いコストで雇用することができる。
・労働契約を結ぶ場合は、実際の手取り額を明確にして伝える。
仕事内容は契約書に明記する。書かれていないこと以外の仕事はしないと考えておく。

終わりに

ベトナムでは、情報はすぐに変わります。また、正確な情報はベトナムでの実生活内でしか得ることができません。ベトナム進出を成功させるためにも、ベトナム現地でのリアルな情報収集を行うことをおすすめします。