ベトナム進出ガイド

【ベトナム進出】法人設立から現地運営まで完全ガイド(2025年版)

1. はじめに:なぜ今ベトナムなのか?

2025年現在、日本企業のアジア進出先としてベトナムは確固たる地位を築いています。そして、その背景には以下のような要因があります。

  • 高い経済成長率
    ベトナムは過去10年以上にわたり、年平均6~7%のGDP成長を維持しており、ASEAN諸国の中でも特に安定した成長を続けています。

  • 若く豊富な労働力人口
    平均年齢約32歳という若さと、教育水準の高い労働力が魅力です。例えば、IT・製造業・サービス業など、幅広い分野で人材活用が可能です。

  • 親日的な国民性と文化的近接性
    歴史的背景や国際協力を通じて、日本に対する好感度が高い国です。そのため、ビジネスパートナーとしても信頼関係を築きやすい土壌があります。

  • 地政学的・経済的な優位性
    中国との地理的な近接性を活かした「チャイナ+1」の生産拠点としても注目されています。そのため、アメリカや欧州とのFTA(自由貿易協定)も整備されています。

ベトナムへの進出は、もはや大企業だけの戦略ではありません。中小企業や個人起業家にとっても十分に現実的かつ魅力的な選択肢となっています。

2. ベトナム進出の主な方法3パターン

進出方法は、事業の目的・リスク許容度・初期投資額などによって異なります。ここでは、代表的な3つの進出方法をご紹介します。

① 駐在員事務所の設立(Representative Office)

  • 特徴:営業活動・収益活動は禁止。調査・交渉・情報収集などに限定。

  • メリット:初期費用が安く、法的リスクも低い。

  • デメリット:売上を上げることができないため、本格展開には不向き。

★こんな方におすすめ:

  • 将来的な進出を検討している段階

  • 市場調査や顧客開拓のために、まず拠点を置きたい

② ベトナム法人(有限責任会社/株式会社)の設立

  • 特徴:営業活動が可能で、ベトナム国内で正式な事業体として運営できる。

  • メリット:契約・販売・従業員雇用など自由度が高く、長期的な事業展開が可能。

  • デメリット:手続きが煩雑で、初期投資・法的義務も発生。

★こんな方におすすめ:

  • 本格的にベトナムで売上を上げたい

  • 自社製品・サービスを現地で展開したい

③ 現地企業との提携・出資(合弁会社・業務提携)

  • 特徴:すでにベトナムに基盤のある企業と組む形で進出する。

  • メリット:スピーディに事業を開始でき、現地ノウハウを活用可能。

  • デメリット:パートナー選びに失敗するとトラブルになる可能性も。

★こんな方におすすめ:

  • 自社単独では進出が難しいと感じている

  • 信頼できる現地パートナーがいる

3. 現地調査とマーケットリサーチの重要性

進出において最も軽視されがちですが、最も重要なのが「事前調査」です。

なぜ現地調査が必要なのか?

  • 日本での成功モデルがそのまま通用するとは限らない。

  • 文化・価格感覚・ニーズの違いを把握していないと、高確率で失敗する。

  • ベトナム国内でも、ハノイとホーチミンでは消費行動や気質に差がある。

調査すべき項目の例

分野 調査項目
市場 潜在需要、競合の数・価格帯、シェア構造
消費者 ターゲット層の年齢・所得・嗜好
法制度 規制、ライセンスの有無、禁止業種の確認
人材 現地人材の賃金相場、採用経路
物流 輸送コスト、税関手続き、インフラ状況

効率的な調査方法

  • 現地視察:自分の目で確かめるのが一番の情報源となる。

  • 業界ヒアリング:すでに進出している日系企業や商工会議所に話を聞く。

  • 専門調査代行:信頼できる現地の調査会社に依頼する。

★ポイント:現地で「リアルな声」を聞くことが、データよりも価値あるヒントになることが多い。

4. 法人設立手続きと必要書類

ベトナムに法人を設立する際には、一定の法的手続きが必要です。以下に、流れと必要書類をまとめます。

4.1 設立の基本的な流れ(外国人投資家の場合)

  1. 投資登録証明書(IRC)の取得

    • 外国資本が入る場合、まず「投資登録証明書(Investment Registration Certificate)」の取得が必要です。

  2. 企業登録証明書(ERC)の取得

    • 次に「企業登録証明書(Enterprise Registration Certificate)」を取得して、法人格を持つ会社として登録します。

  3. 印鑑登録・税務登録

    • 企業印鑑の作成と税番号(TIN)の取得、電子インボイス(e-invoice)の発行登録が必要です。

  4. 銀行口座開設・資本金払い込み

    • 資本金は、IRCやERCに記載された金額を原則として90日以内に払い込む必要があります。

  5. 営業許可・事業ライセンス(必要業種のみ)

    • 小売業や飲食業など一部の業種では、別途営業許可が必要になります。

4.2 必要書類(日本法人または個人が設立する場合)

書類 内容
パスポートコピー(発起人・代表者) 公証・認証が必要な場合あり
会社定款(英語+ベトナム語) 公証付きが望ましい
事業計画書(英語+ベトナム語) 初年度の売上・利益計画など
日本法人登記簿謄本(法人設立の場合) ベトナム語翻訳+認証付き
オフィス賃貸契約書 設立時点でのオフィス住所が必要
銀行残高証明書 資本金の裏付けとして提出

★注意点:書類のベトナム語訳や公証は、専門業者に依頼するのがスムーズです。

5. 現地オフィス、人材採用、銀行口座開設

設立後の初期オペレーションについても、以下の準備が必要です。

5.1 オフィスの選定

  • バーチャルオフィスは禁止(登記上、実態のあるオフィスが必要)

  • ホーチミン・ハノイともに、外資向けのレンタルオフィスが充実

  • 工場・倉庫を含めた場合は工業団地を選定することが多い

5.2 銀行口座開設

  • 設立直後にまず「資本金口座(投資口座)」を開設

  • 資本金払い込み後、通常の「事業用口座」を開設

  • 多くの銀行では、代表者が現地に渡航して署名・本人確認が必要

5.3 人材の採用

採用チャネル

  • 求人サイト:VietnamWorks、CareerBuilder.vn、TopCVなど

  • 人材紹介会社:日系・ローカルともに多数存在

  • SNS活用:Facebook求人グループはベトナムでは非常に有効

労働契約と注意点

  • ベトナムでは労働契約の書面化が義務

  • 試用期間の設定(通常1~2か月)

  • 社会保険への加入義務(労働者を1人でも雇用した場合)

6. 会計・税務・法務体制の構築

現地法人として継続的に運営するには、管理体制の整備が不可欠です。

6.1 会計処理の基本

  • ベトナムの会計基準(VAS)に基づいた帳簿管理が必要

  • 日本との連結を意識する場合、IFRS準拠の報告体制も検討

  • 会計ソフト:MISA、FAST、日系ソフトも選択可

  • 外注:月額300~800USD程度で会計記帳代行を依頼可能

6.2 税務申告

税目 内容
VAT(付加価値税) 通常8〜10%、月次申告が必要
法人税 税率は20%、四半期ごとの納税が一般的
個人所得税 源泉徴収義務あり
外国契約者税 海外への送金に対する課税(5~10%)

★電子インボイス(e-Invoice)の発行は義務化されているため、導入は必須です。

6.3 法務とコンプライアンス

  • 年次報告書・会計報告書の提出義務

  • 社会保険、労働契約の整備

  • 労働局・税務局からの調査対応

  • 外国人就労許可証(ワークパーミット)の取得

★就労許可証は90日以上の滞在が想定される場合に必須。発給には健康診断・犯罪歴証明・学位証明などが必要。

7. よくあるトラブルと回避法

ベトナム進出時には、日本とは異なる商習慣や制度の違いから、思わぬトラブルに遭遇するケースがあります。以下に代表的な事例と対策を紹介します。

7.1 書類の不備による設立遅延

原因:

  • ベトナム語訳の誤り、または公証書類の不備

  • オフィス契約書が不適格(住宅契約など)

対策:

  • 法人設立の実績がある専門業者を通じて申請

  • オフィス契約書は「商用利用可」の明記が必要

7.2 想定外のコスト増加

原因:

  • 隠れた設立費用、ライセンス申請の追加費用

  • 労働保険や税金の理解不足による納付ミス

対策:

  • 初年度の予算には「予備費(20%)」を含める

  • 会計・税務に関しては早期に外部パートナーと契約

7.3 人材の定着率の低さ

原因:

  • 給与相場とのギャップ、日本的な管理体制の押し付け

  • 昇給・評価制度の不明確さ

対策:

  • 入社時の条件提示を明確に

  • 定期的なフィードバック・評価制度を構築

  • 信頼関係を築くコミュニケーションが重要

7.4 契約や商慣習の違い

原因:

  • 曖昧な口約束・非文書化取引

  • 契約内容があっても履行されない

対策:

  • 取引はすべて文書化し、署名・印鑑を必須に

  • 紛争時の準拠法(ベトナム法 or 日本法)を明記

8. 現地支援サービスの活用

ベトナム進出時には、信頼できる支援パートナーの存在が成功の鍵となります。特に、日本人の場合、日本のコミュニティへの帰属意識が高いことがあげられます。そのため、日系企業を最初使用してみるのも良いかもしれません。一方、コスト重視であれば、現地企業を使用することをおすすめします。

8.1 活用できる日系支援機関例

機関 支援内容
JETRO(日本貿易振興機構) 市場調査、法人設立相談、セミナー開催
日系会計・法律事務所 税務・労務・法務サポート全般
現地日系コンサル会社 設立手続き代行、採用支援、通訳同行など

8.2 自社に適した支援パートナーの選び方

  • 経験実績:実績ある王道支援 or 新鋭で手厚い支援
  • 対応言語:日本語対応(or 英語対応)スタッフがいるか

  • 料金体系:パッケージ料金 or カスタマイズ料金

  • サポート領域:部分的サポート or 一貫したサポート

  • サポート内容:表面的なサポート or 伴走的なサポート

9. ベトナム進出の実態

ここまで、ベトナム進出支援をしている企業なら書いているであろう基本的な内容をまとめました。ここからは、実際にネット情報とリアル情報がどう違うのかをいくつかご紹介していきます。

減少するベトナムの日本人と日系企業数

ベトナムの経済成長は上向きであることは間違いありません。しかし、ベトナムにいる日本人と日系企業の数は減少しています。毎年10月に外務省が発表する「海外在留邦人数調査統計」からも明確です。

2020年:23,437人 2021年:22,185人 2022年:21,819人 2023年:18,949人 2024年:17,410人

ベトナムの経済は成長していて、市場的にも魅力なのにも関わらず、なぜ日本人の数は減少しているのでしょうか。理由は、他国との競争に勝てていないためです。ベトナムは海外投資の受け入れに対して積極的です。そのため、外国製品の数も多ければ、それらの品質も良く、マーケティングも上手です。

実際にベトナムに住むとわかりますが、価格、品質、スピード、適応力、マーケティング力など、総合的に見ても日系企業の競争力の低さを感じます。海外で成功させるためにも、進出前の価値あるリサーチを行い、正しい方向での仮説を立て、進出に望むことをおすすめします。

事実、日本人や日系企業の場合、事前調査に費用をかけない傾向があります。ですが、この事前調査こそが最も重要だと、こちらに住んでつくづく感じます。

外資法人として設立する場合、資本金の目安は3,000万円

海外投資の場合、各国ごとに外資規制が存在します。ベトナムの場合、特定分野では投資はできませんが、サービス業等の一般的な分野での海外投資は開放されています。資本金の最低額も明記はされていません。

しかし、外資法人として設立する場合には、実際のところ3,000万円程度が必要となります。それ以下の場合、基本的にIRCの取得認可が降りません。おそらく、ベトナム経済の成長に合わせて、外資企業の資本金の暗黙の認可設定額は今後も上がっていくと予想されます。

この金額を見て、今のうちに進出しておこうと考えるのか、進出を諦めるのか、他に手はないか模索するのか、すべてはあなた次第です。

マネーリテラシーを早めに身につける

知らない土地に行くと、現地のお金の感覚は最初マヒします。なぜなら、物差しがわからないからです。日本だとモノの値段やサービスの値段、宣伝広告費や社労士や税理士に依頼するコストは何となくわかると思います。これが海外だと「わからない」という状況になります。

これは、ベトナムでは様々な場面で、交渉に基づく言い値商売が横行しているためです。これは役所でも普通に行われます。言われた通りに支払っていたら、無駄なコストを支払っていたことに後から気づくというのはよくあります。まだ気づけば良いものの、ずっと気づかずに支払い続けるということもあります。

これを解消するためにも、現地の日本人から情報を聞くだけでなく、様々なベトナム人からも同時に情報を仕入れて「何が正しいのか」を自分なりに見つけることをおすすめします。

10. まとめ:成功のための5つの視点

最後に、ベトナム進出を成功させるための5つのキーポイントを整理します。

  1. 徹底した事前準備と情報収集

    • 法制度、税制、業界構造を理解、現地のリアルな情報収集と正しいであろう仮説

  2. 現地ニーズとの適合

    • 自社商品・サービスが本当に受け入れられるかの検証、適正価格の判断

  3. 信頼できる現地パートナーの確保

    • 設立手続き、人材採用、通訳、法律支援などの外部連携

  4. 「日本式」の押し付けを避ける柔軟性

    • ローカルの習慣や文化に敬意を持った運営、譲りすぎず・譲らなさすぎず

  5. 継続的な学習と改善

    • 試行錯誤を繰り返しながら現地に根付く企業へ成長させる

最後に

ベトナム市場には確かな成長性と魅力がありますが、それと同時に日本とは異なる難しさもあります。本記事が、あなたのベトナム進出の道標となれば幸いです。

現地での実務支援やリサーチ代行が必要な場合は、お気軽にご相談ください。