【体験談】ベトナム教育の実態|英語と日本語の今
はじめに
2025年現在、ベトナムは「経済成長」「若年人口の多さ」「国際化の加速」という3つの要素を背景に、教育分野でも世界から注目を集めています。どんな国であっても、持続的な発展の基盤は教育にあるといっても過言ではありません。教育制度の仕組みや現場の実情を理解することは、その国の未来を読み解く重要な手がかりとなります。
また、ベトナムの教育事情を知ることは、ベトナム駐在員のご家庭や留学を検討する学生・親御さんにとっても欠かせない情報です。どのような教育制度のもとで、どのような力が育まれているのかを理解することで、より現実的な進学・転校計画を立てることができます。そこで本記事では、
- ベトナムの義務教育制度
- 国民の高いデジタルリテラシーの背景
- 進化する英語教育の現状
- 広がる日本語教育の実態
という4つのテーマから、最新のデータ・エビデンス・体験談に基づき、ベトナムの教育事情を総合的に解説していきます。
1. ベトナムの義務教育制度
現行のベトナム教育法(43/2019/QH14)では「初等教育」が法的に義務化されています。 中等教育については普及が進み、実質的な就学率は高いです。しかし、法制度上は「全国一律の義務教育」として完全に位置付けられているわけではありません。ちなみに、政府目標としては「9年義務化」を掲げる動きがあります。
(参考:VIETNAM.VN)
1.1 基本構造(年齢・学年構成)
ベトナムの一般教育は次のように整理されます(※年齢は目安です)。
- 幼稚園:3〜5歳(義務ではない)
- 初等教育:1〜5年生(6〜11歳|法的に義務化)
- 下位中等:6〜9年生(11〜15歳|実質的には普及/法的義務化は段階的で政策目標段階)
- 上位中等:10〜12年生(15〜18歳|高等中等教育)
1.2 義務教育「どこまでが義務か?」|法律と現場のギャップ
ベトナム教育法により「初等教育は義務である」と明記されています。つまり、すべての子どもが小学校(1〜5年生)に通うことが国家の義務とされています。
他方、政府及び国際機関は「9年(初等+下位中等)を義務教育とする」ことを長年の目標としており、文書・報告では普及目標が繰り返し示されています。しかし、法改正や実施体制の面で全国一律の完全義務化は段階的です。
1.3 カリキュラム(義務教育期に学ぶ主要科目)
初等〜下位中等で公式に教えられる主要科目は、モジュール化された国定カリキュラムに沿っています。代表的内容は次の通りです。ただし、改訂が続いているため学校ごと差があることに留意して下さい。
初等(1〜3年生)主科目例
- ベトナム語(国語)/読み書き
- 算数
- 道徳
- 自然・社会
- 芸術・体育
- 情報基礎(IT)・外国語(徐々に導入)
※近年の改訂で早期英語・ICT導入が進んでいます。
上位初等(4〜5年生)に追加される科目
- 歴史・地理
- 基本技能
- 体験活動、外国語(英語)等
※下位中等(6〜9年生)では科目が細分化(物理・化学・生物・数学発展・外国語等)し、学習負担や試験(進級・卒業)も増えます。
1.4 都市部と農村・山間部の格差(アクセスと完了率)
都市部(ハノイ・ホーチミン)では初等・下位中等の普及率・通学環境が高いです。しかし、農村・山岳地域や少数民族居住地域では依然としてギャップが残るという事実があります。国際調査・報告が示す主な指標では、次のように書かれています。
就学率・修了率の地域差
UNICEFのデータでは、都市部の完了率は非常に高く(初等完了はほぼ100%近傍)、下位中等・上位中等の普及も都市で高い。一方、少数民族地域では初等完了率や中等進学率が低め(歴史的な課題)である。
理由
地理的な遠隔、経済的貧困、言語(家庭では少数民族語を使う場合があり、ベトナム語での授業に早期から慣れることが難しい)、学校の設備不足、教員確保の難しさなど。
政策対応
寄宿制学校・半寄宿制・少数民族向けの特別プログラム等が設けられ、普及率向上に寄与している。しかし、地方格差の完全解消にはまだ時間を要するとの評価が多い。
1.5 公立/私立/非公的(学校形態)と外国人児童の位置づけ
国公立校
国公立校が依然多数(例:2017-18年データで97%が国公立)を占めています。ですが、公立校は地域による質の差が大きい状況です。
私立・国際校
私立・国際校は、都市部で増加しています。英語授業、バイリンガル教育、国際カリキュラム(Cambridge, IB等)を導入する学校がハノイ・ホーチミンで多数あります。また、日本人駐在員家族の多くはこれら「私立/国際校」を選択しがちです。
寄宿・少数民族向け学校
寄宿・少数民族向け学校は、遠隔地の就学支援として機能しており、特別補助や国家プログラムの対象になっています。
1.6 実務的に日本人家族が確認すべき項目
日本のご家庭が駐在先で学校を選ぶ際に、すぐに確認すべき具体項目を挙げます。
- 学年対応と編入可否:日本の学年とベトナム学年(基準年齢)の対応、編入時の試験有無。
- 授業言語:授業がベトナム語のみか、英語・バイリンガルか(日本語サポートの有無)。
- カリキュラム:国家カリキュラムか国際カリキュラム(Cambridge/IB)か。
- サポート体制:英語補習、日本語支援、カウンセリング、医療・安全面。
- 通学・住環境:通学時間、スクールバス、寮の有無。
- 学費・追加費:授業料に加え教材費・寮費・行事費等の実額。
- 進学・卒業実績:国内外大学進学率・外部試験(TOEFL/IELTS)実績。
これらを、該当校の公式ページや在ベトナム日系コミュニティ、学校見学で必ず確認してください。
2. ベトナム国民のデジタルリテラシーが高い理由
2.1 背景と現状|デジタル環境
ベトナムは東南アジアの中でも、急速にデジタル化が進む国の一つです。実際にハノイに住んでいる私もデジタル面での発展具合に驚くばかりです。『DataReportal: Digital 2023 Vietnam』によると、
- インターネット利用者数:約7,750万人
- 普及率:約79%(人口約9,820万人中)
- スマートフォン普及率:約75%以上
と報告されています。つまり、国民の約8割がデジタル環境に接続できる国になっています。
2.2 背景と現状|国家戦略
さらに注目すべきは、政府の強力な後押しです。ベトナム政府は「国家デジタルトランスフォーメーションプログラム(National Digital Transformation Program 2025–2030)」を策定し、教育・行政・産業のすべての分野でデジタル化を推進しています。
その一環として、文部科学訓練省(MOET)は、初等・中等教育におけるICTリテラシー教育の必修化を進めており、2020年代以降は都市部のほとんどの学校でコンピュータ授業が導入されています。
2.3 背景と現状|リアル社会
また、国営通信会社VNPTやViettelなどが主導する「Digital Literacy for All」キャンペーンにより、地方や農村部の若者・女性を対象としたスマホ活用講座やデジタルスキル研修が全国で行われています。結果として、地方でもSNS・オンラインショッピング・電子決済などを日常的に活用する層が徐々に増加しています。
また、社会的背景として、ベトナムの平均年齢は約32歳。つまり若年人口が多く、デジタルツールに親和性が高い社会構造になっていることも、デジタルリテラシー向上の要因となっています。
2.4 背景と現状|教育現場や親子間
ベトナムの教育現場では、Google Classroom、Microsoft Teams、Kahoot、などを活用したデジタル授業が一般的になりつつあります。特にハノイ・ホーチミンの国際学校では、ハイブリッド型(対面+オンライン)教育が定着し、子どもの柔軟な学習を支えています。
また、大学や高校レベルでは、AIリテラシーやデータ分析を教えるカリキュラムも導入。これにより、日本から駐在・転校する生徒も、比較的スムーズにデジタル環境へ適応できると考えられます。
家庭でもスマートフォンやタブレットが普及しており、YouTube・TikTok・オンライン講座などを通じて自主学習する文化も根づきつつあります。親世代もSNSや電子決済を日常的に使うため、家庭単位でのデジタル対応力が高い点も特徴です。
3. 現在進むベトナムの英語教育
3.1 背景と現状
ベトナムでは近年、「英語教育」が国家的な重点分野に位置づけられています。政府は「National Foreign Language Project 2020–2030(国家外国語プロジェクト)」を推進しており、その目的は明確です。
「2030年までに英語を第二言語として広く普及させ、ベトナム人が国際的に通用する英語運用能力を持つ社会をつくること」(出典:Ministry of Education and Training, Vietnam)
このプロジェクトの中では、初等教育から高等教育までの全教育段階で英語教育を体系化し、
- 英語授業の早期化(小学3年生から必修)
- 教員の英語力基準の設定(CEFR準拠)
- オンライン・ICT教材の導入
が進められています。
また、2023年に「英語を第二言語とする国家戦略」が掲げられており、教育省(MOET)は2025〜2035年の間に英語を第二言語としてすべての学生に提供する方針を示しています。
さらに都市部では、英語を母語レベルで話す層も登場。特にハノイやホーチミンでは国際校・私立学校・バイリンガル校の競争が激化しています。例えば、BIS HanoiやHanoi International Schoolでは、授業のほぼ全てが英語で行われています。
一方で、地方では教師不足や教材格差が課題とされており、教育省は英語教師の再訓練・オンライン教育支援を実施中。また、英語能力試験(IELTS・TOEIC)のスコアが大学入試や就職に直結する制度も導入されており、英語が「キャリア形成の鍵」になっています。
3-2 英語教育の社会的意義
経済成長と外国資本の流入により、ベトナムでは英語が実用言語として不可欠になっています。
- 多国籍企業や観光業界では英語必須
- 政府職員・公務員採用でも英語能力を条件化
- 大学卒業要件に英語試験を組み込む学校が増加
また、SNSやYouTubeなどを通じた自発的な英語学習文化も若者の間に定着しており、英語インフルエンサーが活躍しています。
3-3. ハノイ生活で感じる英語教育のリアル
実際にハノイで生活していて驚くのは、ベトナム人の子どもたちの英語発音の美しさです。特に新興マンションエリアでは、幼稚園や保育園が数多く立ち並びます。そして、その周辺は英会話スクールの激戦区となっています。
ベトナムの家庭は「教育への投資」を惜しみません。将来のキャリア形成を見据え、幼少期から英語教育を重視する傾向があります。数年前までは日本語学習の人気も高かったのですが、近年はグローバル経済の流れを受け、「英語こそが未来への鍵」という認識が広がっています。
英語を話せることで得られるキャリアの選択肢が増えるという現実的な価値観が、英語学習を強力に後押ししています。こうした背景が、ハノイの若年層に見られる高い英語力、特に発音の正確さやスピーキング能力の高さにつながっていると感じます。
4. ベトナムでの日本語教育の実態
最後に、ベトナムにおける日本語教育の現状と、今後の展望について整理します。
4.1 日越パートナーシップ
2000年代以降、ベトナムの日本語教育は経済協力とともに急速に拡大。特に近年、日本とベトナム両政府は「日越教育パートナーシップ強化」を打ち出しました。、そこでは、2025〜2034年にかけて小学校3年生から高校12年生までの日本語教育導入を目指す政策枠組みに合意しています。
また、ベトナム教育出版ハウスは、日本語教育専用の教科書を編纂・全国配布するプロジェクトを進めています。これにより、体系的な学習カリキュラムの整備が始まっています。
4.2 増える日本語学習者
実際、2023年時点で日本語を学ぶベトナム人学習者数は約17万人以上とされています。これは、世界で上位5位に入る規模です。日本語教育機関の数も増加しており、ハノイ・ホーチミンの都市部では高校・大学での日本語専攻学科や選択授業が一般化しつつあります。
この背景には、日本への留学・技能実習・高度人材就労など、日本語を通じてキャリアを築くチャンスが増えたことがあります。ベトナムの若者にとって日本語は「文化教養」だけではなく、「キャリア言語」として位置づけられているのです。
4.3 日本人駐在員の視点
ベトナムで生活する日本人駐在員家庭にとっても、日本語教育が広がっていることは大きな安心材料です。子どもがベトナムの学校に通いながらも、日本語・日本文化に触れる機会を確保できるため、帰国後の教育や進路の選択肢を広く保つことができます。
さらに、英語と日本語のダブル言語環境”を持つ学校が増加傾向にあります。これは、国際的な教育を求める家庭には魅力的な選択肢となっています。そして、日系企業・日本語対応の教育機関が集中するハノイやホーチミンでは、インターナショナルスクールや民間の日本語塾が共存しています。そのため、家庭の教育方針に応じた学びの形を選ぶことが可能です。
また、日本語教育が進むことで、将来の進学・就職の幅が広がるという利点もあります。実際に、ベトナム国内でも日系企業の採用ニーズは高いです。例えば、日本語能力試験(JLPT)N2以上の保有者は優遇される傾向にあります。これは子どもの将来設計においても無視できない要素です。
おわりに
ベトナムでは、将来に向けた学びの環境が整ってきています。ただし、地域・学校・プログラムによって格差も存在します。そのため、留学・駐在先選びにあたっては「現地の学校環境」「言語対応」「進学・就職実績」を丁寧に確認することが重要です。
子どもの教育を通じて「ベトナムに住み・学び・成長する」という選択肢を検討する際、本記事がその判断材料の一助になれば幸いです。ベトナムの現地調査やリアルな情報が必要な場合には、いつでもご連絡下さい。
本記事執筆にあたっての参考情報リスト
- Wikipedia “Education in Vietnam”
- Thu Vien Nha Dat “EDUCATION LAW”
- VIETNAM.VN “Compulsory education for 9 years why should not be delayed?”
- PADECO Report
- NORD ANGLIA “THE VIETNAMESE CURRICULUM”
- EDUCATION DESTINATION ASIA “Primary School Education System In Vietnam”
- NIH “A Review of Vietnam’s Education Trends in the Past 20 Years and Emerging Challenges”
- UNICEF DATA
- UNESCO “VIET NAM NON-STATE ACTORS IN EDUCATION”
- Mega Story “DIGITAL LITERACY FOR ALL – VIETNAM’S NEXT KNOWLEDGE REVOLUTION”
- Vietnam Plus “Vietnam aims to make English a second language for all students by 2035”
- Tuoi Tre News “Vietnam aims to teach Japanese from grades 3 to 12 nationwide”
- VIETNAM.VN “Japanese language textbooks will be available nationwide from 2025.”