【体験談】“神速洗い”に見るベトナムの食品衛生の実態

【体験談】“神速洗い”に見るベトナムの食品衛生の実態

2025年8月15日に配信されたニュース、タイトルは「歩道のレストランが電光石火の速さで皿を洗う事件にネットユーザー震撼」というもの。そこには、とある路上レストランの食品衛生の実態が書かれていました。

事実、経済発展とともにベトナム人の衛生に対する意識は向上しています。今回は、報道されたニュースに触れ、ハノイのローカル路上レストランでの私の実体験からベトナムの食品衛生のリアルを解説します。

「神速洗い」騒動の実態と行政対応

FacebookユーザーによってSNS上に投稿された屋台店舗の映像が話題に。映像には、一人の女性がお客の使用済みのどんぶりをわずか数秒で水にくぐらせただけで再び提供する様子が映っており、『恐怖を感じる』という反応が相次ぎました。

この投稿を受け、フエ市Thuận Hóa区の人民委員会は即時に調査チームを派遣。そして、行政による衛生状況の確認と改善指導が行われました。

この事件は、屋台の衛生管理に対する消費者の信頼低下を招きました。そして同時に、行政監視の強化や法令遵守対応の必要性を浮き彫りにしています。

参考:THANH NIÊN

ベトナムの食品衛生法で求められる基準

ベトナムでは、2010年制定の「食品安全法(Luật An toàn thực phẩm 55/2010/QH12)」が、飲食店を含む食品関連事業に対して幅広い衛生基準を定めています。

その内容には、

  • 第19条:調理・販売施設は適切な場所と設備を備え、衛生的な作業環境および害虫対策が義務付けられる。
  • 第28~29条:調理過程では生・加熱済み食品の交差汚染を防ぎ、十分な飲用に適した水の確保や廃棄物処理設備の設置が必要。
  • 第31~32条(屋台向け):食品を直接汚染源から隔離、清潔な展示台の利用、安全な容器と包装材の使用、衛生的な食器と保管の確保が義務。

といった規定が含まれています。
参考:chinhphu.vn

また、2018年にはこれらの法律を具体的に運用するための「施行細則(Nghị định 15/2018/NĐ-CP)」も整備され、行政罰や是正措置の枠組みが明確化されました。
参考:chinhphu.vn

このように法律上は規定があるものの、実態はニュースのように乖離しているというのはベトナムでは依然として多い状況です。

ハノイでの実体験

ハノイのローカルレストラン

私はローカルレストランを利用することが多いです。利用する理由は価格の安さ、歴史を感じる良さ、美味しさによるもの。ローカルレストランは価格が下がる一方、衛生面では心配な部分が残るのは事実です。具体的には、

  • 使い捨ての割り箸ではなく、再利用箸が一般的
  • 同じ水で大量の食器を洗い続けるのはよくある光景
  • テーブルはお客が拭いているお店が多い

といった具合です。

お客の食品衛生意識の向上

ですが、冒頭でも触れた通り、お客であるベトナム人の衛生意識は確実に向上しています。例えば、

  • 箸をティッシュで何度も拭いてから利用している
  • 仮に店員が拭いた後でもテーブルを何度も拭いている
  • 食器が汚れていたら注意する人がいる

などが挙げられます。ベトナムでは外資ブランドを始め、清潔な空間を提供するレストランが増えています。そのため、今後は外食産業において「清潔さ」はレストランの生存をかけた重要な要素になることは間違いないでしょう。

日系法人が抑えるべき飲食店リスク対策

このような点から、ベトナムでの飲食業進出に際して日系法人が留意すべき点は次のように言えます。

  • 現地調査・教育の徹底
    衛生基準や法令に関する教育を現地スタッフにも実施。行政の査察に備えた運営態勢を構築。
  • 社内ルールと実務運用の差を可視化
    衛生チェックリストや自己監査体制を導入。店舗運営の実態と理論的基準との差を継続的に発見・改善。
  • SNS対応とリスク回避体制を整備
    SNSによる「晒し」リスクに備え、迅速な対応フローと情報発信体制を事前に準備。
  • 公式ガイドラインと行政動向の継続確認
    法改正や地方ごとの運用ガイドを注視し、常に最新の法令遵守策を採用。

ごく一般的なことですが、今後はベトナムでもこのような対策が必要になるでしょう。

おわりに

今回の「神速洗い」の事件は、SNS時代における消費者のリアルな反応を映し出しています。同時に、ベトナム進出企業にとっての衛生リスクの顕在性と、法的・社会的リスク管理の重要性を改めて示す事案でもあります。

MISSION.Hでは、現地衛生状況の実地調査等も可能ですので、お気軽にご相談下さい。