
【ベトナム進出/移住】経済犯罪でも終身刑?日本との量刑の違い
経済成長とともに法律面での厳格化が見られるベトナム。刑法における日本とベトナムの違いは大きく、ベトナムの現地ニュースでは、日本以上に終身刑や無期懲役の判決が目立ちます。
今回は実際に起きた事件をもとに、日本とベトナムの量刑の違いを解説します。
経済事件で主犯に終身刑
2025年8月、ベトナムのダナン市にある金融会社「Vietnam Capital」の会長と社長が、約300人からおよそ1,400億VND(約8億円)を騙し取った詐欺罪で終身刑を宣告されました。日本で同様の経済事件が発生した場合、ここまで重い刑罰が下されるケースはほぼありません。
(参考:DÂN TRÍ)
詐欺の手口
- 無許可での預金業務
同社は「質屋サービス」として登録されていたが、実際は銀行の許可なく預金業務を行っていた。 - 高金利を提示
6〜24ヶ月の期間で、年利最大18%という高金利を謳い、顧客から預金を集めた。 - 自転車操業と私的流用
集めた資金は、投資や銀行預金、前の顧客への利払いに使用。そして、2020年頃からは新たな預金者からの資金を古い預金者への支払いに充てるという「自転車操業」の状態。また、幹部の2人は集めたお金を個人的な目的で利用。
2023年には資金繰りが破綻。顧客への支払いが不能になったことで事件が発覚。最終的に、警察は288人の被害者を確認、被害総額は約1,400億VNDに上った。
日本との刑罰のギャップ
日本の刑法では、詐欺罪の最高刑は懲役10年が上限です。また、特定経済犯罪加重罰則法でも懲役20年が上限です。生命に危害を加えない経済犯罪で、終身刑や死刑になることは基本的にありません。
一方、ベトナム刑法では異なります。詐欺や横領でも、被害額が数百億VNDを超えると終身刑や死刑の対象です。つまり、同じ金額規模の事件でも、日本とベトナムでは量刑が何倍も違うのです。
なぜベトナムは経済犯罪に厳しいのか?
理由は大きく3つあります。
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国家の経済基盤を守るため
ベトナムは金融システムや投資環境の信頼が経済成長の生命線です。巨額詐欺や横領は、社会の安定と投資家心理に直結します。
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社会主義国家としての統制思想
社会秩序を脅かす行為には、強い抑止力をかける傾向があります。これは経済分野でも同様で、特に「多くの国民を巻き込む事件」には厳罰が下されやすいです。
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過去の大型事件の影響
過去にも銀行幹部や国営企業トップが経済犯罪で死刑判決を受けた事例があります。こうした前例が、現在の量刑基準にも影響を与えています。
無期懲役・終身刑の適用条件
ベトナム刑法では、例えば、詐欺罪(Điều 174)や横領罪(Điều 353)において、
- 被害額が5億VND(約300万円)以上で加重刑対象
- 被害額が10億VND(約600万円)以上、かつ組織的・計画的犯行の場合、終身刑や死刑の可能性
という区分が明記されています。
ただし、実際には金額だけでなく、被害者数や社会への影響度も判断材料となります。
日本人駐在員・進出企業が気をつけるべきこと
- コンプライアンスの徹底
現地法人や提携先の契約・資金管理は細かくチェックする必要があります。 - 知らなかったでは済まされない
役職者やサイン権を持つ立場は、たとえ部下の犯行であっても責任を問われる可能性があります。 - 契約書・許認可の二重確認
非公式な取引や口約束はリスクが高く、トラブル時に刑事事件化する恐れがあります。
おわりに
ベトナムでは、経済犯罪でも日本以上に重い刑罰が科されることが珍しくありません。特に、巨額被害や多くの国民を巻き込む事件は、終身刑や死刑が現実的な選択肢です。
海外でのビジネスは、現地の商習慣や経済ルールだけでなく、刑事法の量刑感覚も理解しておくことが、事業リスク管理の第一歩です。現地の様々な情報が必要だと感じた場合には、いつでもご連絡下さい。