
【体験談】実体験から見るベトナムの契約書と注意点
ベトナムでのビジネスにおいて避けて通れないもの、それが契約書(Hợp đồng)です。そして、ベトナムの契約文化は、日本と同じように見えて、根本から違うところがあります。
今回は、私が実際に取り交わしてきた契約書の事例を交えながら、ベトナムの契約文化の特徴や注意点をお伝えします。
契約書の冒頭の定型句
ベトナムの契約書にほぼ共通するスタートがあり、それが以下の言葉です。
CỘNG HÒA XÃ HỘI CHỦ NGHĨA VIỆT NAM Độc lập – Tự do – Hạnh phúc
(「ベトナム社会主義共和国 自由・独立・幸福」の意味)

この一文は、ベトナム国家の正式文書であることを示す定型句です。そのため、どの契約書にも冒頭に記載されているのが通例です。まるで国の威厳が、そのまま契約書に乗ってくるかのような印象すらあります。
契約書は“形式美”が重視される
ベトナムでは、形式に厳格な面があります。例えば、以下のような点です。
- 各ページに署名+押印(契約当事者双方とも)
- 日付は 「◯日/◯月/◯年」の順(例:31/07/2025)
- 単位や数字の表記形式が日本と違う(例:1.000.000VNDなど)
特に、日本人が見落としがちなのは「署名欄が複数箇所にある」点です。最後のページだけでなく、契約書の全ページにサインが必要とされることが多く、忘れると「正式な契約と見なされない」こともあります。


事例①:賃貸契約書
特徴
皆さんがベトナムに来た際に必ず締結することになるのが、賃貸契約書です。これは家もオフィスもいずれの場合でも必要です。以下が私が実際に賃貸契約した際に感じた点です。
- 家の賃貸契約書は枚数が少ないが、オフィスの賃貸契約書は異常に多い
- ベトナム語版が基本だが、外国人だと英語版も準備してもらえる(日本語版はない)
- そもそも外国人には貸さないところも多い
- 仲介業者が不在でも、オーナーと直接契約を結ぶことが普通
- Appendix(付録)が多い
もちろん、契約書の種類や契約相手にもよりますが、上記の傾向が見られます。
アドバイス
- 契約書またはベトナム語に不慣れな状態であれば、最ベトナム人に通訳または翻訳してもらう
- 契約書内に疑問がある場合、必ず加筆、修正、説明を求める
- 保証金の返還や支払期限など数字部分はその場で必ず相手方にも確認する
事例②:サービス契約書
特徴
次に多いのが、サービス提供のための契約書です。日本では「え?このサービスを提供するのに契約書がいるの?」と思うものまで契約書を求められるケースがあります。以下が私が実際にサービス契約した際に感じた点です。
- 契約書の記載される内容は相手により大きく異なる
- 相手が個人なのか、法人なのかによって、押印とサインの仕方が異なる
- 契約未締結でもサービス開始、金銭授受、終了ということもよくある
- 税務上のエビデンス強化という側面がある
- 金額にかかわらず書面の契約書が必要なケースがある
アドバイス
- 基本的に相手方から契約書を求められた場合には、契約書を準備して提出する
- 定期的なサービスの供与の場合、契約書は必須と考える
- 契約書の有無はビジネスでの慣れも必要なため、自主的に契約書締結行為に関与する
事例③:ベトナム人弁護士の対応の実態
特徴
日系企業の場合、実際に契約書を作成する際は、法務部または提携弁護士に依頼するケースが多いでしょう。日系弁護士は問題ないと思いますが、ローカル弁護士の場合、契約書作成の際にテンプレ乱用がよくあります。
そのため、作成する際に依頼した文言が盛り込まれていない、むしろサンプルを渡すから後はそちらでやってね、というケースも普通にあります。また反対に、契約書を受け取って確認を依頼する場合にも全く読んでおらず返事だけされるというケースもあります。
アドバイス
「弁護士に依頼した契約書なら大丈夫だ」と決めつけず、必ず細部までご自身で目を通して確認するようにして下さい。
もちろん中には良い弁護士もいます。ここで最もお伝えしたい内容は、「人に依頼したからOK」ではなく、必ずご自身も確認するという点です。この行為により、あなた自身の契約書に対しての知識も身につきますし、他の場面でもこの習慣が必ず役に立ちます。
おわりに
ベトナムでビジネスを進めると、デジタルに力を入れる反面、「紙が増える」という現象に気づくと思います。それだけ、ベトナムでは「契約文化」があることを意味しています。
双方のトラブル防止のためにも、ベトナム現地で取り交わされる契約書に慣れておくことをおすすめします。もし、あなたが契約関係でお悩み事がある場合にも、ご遠慮なくご相談下さい。