
【ベトナム進出/移住】ベトナムでの事業撤退の現実と教訓
ハノイに来る前
私は自分で「独立起業」の選択をする前は、日本の会社に勤めていました。
私が元々いた会社は、業界では評判が良く、オリコンのランキングにおいても総合1位の常連でした。会社は小さく、小さいからこそベンチャー気質があり、常に変化の毎日でした。
その会社には約7年在籍しました。7年の間に、本当に様々な経験をしました。「1つのポジション・役割に長く就き、その道を極める」というのが日本の職場環境の常識かもしれません。しかし、その会社の環境は真逆でした。
私が経験した仕事は、「社長秘書・人事部・経理部・FC開拓営業部・研修部・企画部・事業運営部・SV・海外事業部」でした。システム部(ウェブ関連)以外はすべて経験し、最も長かったのはFC開拓営業でした。
ただの部署での在籍でなく、それぞれの事業部長を経験できたことも、とても良い経験でした。短い期間の中に色々なことを経験するというのは、それもそれで面白いものです。「いやあ、ラッキーだな。」と今でも思います。
業界初の海外展開
2023年10月2日、私が直接雇用したベトナム人とともに、初めて海外事業に乗り出してハノイにやってきた日です。その日から、実際に事業開始まで約6ヶ月かかりました。これはライセンスの問題でした。
私がいた会社の事業はハウスサービスです。ダスキンと同じ業界、と言えば一番わかりやすいかもしれません。日本でこのジャンルの事業会社が海外へ進出するのは業界初だったので、前例がありませんでした。
個人で小さく、または、日本では違う事業をしていて海外現地でその事業をする、といったポッと出の会社はたくさんあります。ですが、本業としてハウスサービスを行っている日系会社が海外進出するのは初でした。
そのため、海外進出の依頼相談した弁護士やコンサルティング会社からも「前例がないのですみません」と合計9社、断られました。実際にライセンス取得は容易ではなく、事業開始まで時間がかかったという流れでした。
事業開始するも1年で終了
事業を開始したのは良いものの、その分野での日本の価値を伝えるのは簡単ではありません。日本の環境とは全く違う環境のため、人々が持つニーズを的確に当てに行くのは試行錯誤の連続でした。
「そもそもないサービス」かつ「似たようなサービスがある」場合、自分たちの価値を伝えることはとても難しいものです。また、本社との意向も合わないと感じたことがあり、日本の会社を辞めて、1年で事業を撤退することを決断しました。
自分で採用したベトナム人たち、事業進出に時間が要したこと、様々な思いがあったものの、「事業を終了する」という決断をしました。頑張って組み立てたものを潰すという決断は簡単なものではありませんでした。
ベトナムでの事業撤退
事業を撤退するにも時間がかかるのがベトナム。事業撤退には半年〜1年はかかると言われました。ですが、実際は1.5ヶ月で完全に事業を終了することができました。
「え?本当にですか?」
会う人みんなから言われました。本当に1.5ヶ月で終了しました。ただし、事業撤退を常に意識していたわけではなく、普段からちゃんと事業をしていれば、撤退にもそこまで時間はかからないことがわかりました。
事業撤退の流れ
ベトナムでの事業の撤退の流れは、基本的に以下の流れで進みます。様々な情報からステップの若干の違いはあると思います。以下は、私が実際に進めた流れです。
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当局への事業撤退の申請
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社会保険・労働契約の清算
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(VAT/法人税の支払)
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銀行口座閉鎖
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税務調査開始と税務局とゴニョゴニョ
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アレ
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税務調査の完了
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法人抹消
これがリアルな流れです。そして、ここから補足をさせていただきます。誤解なく行きたいのは、「事業を早く撤退させるため」ではなく、「普段からこうしておくのが一番」ということをお話します。
普段からやるべきこと
①納税・インボイス発行
ステップ3で()でくくった部分です。こちらは通常のステップではこの位置で行うのですが、私の場合、普段から納税やインボイス発行は厳格に行っていました。納税忘れ、インボイスの発行忘れがないように、普段から厳格に行ってください。合わせて社員給与だけでなく、社会保険料の支払いも漏れがないように。
②帳簿チェック
経理に任せっきりの事業主も多いです。ですが、帳簿チェックは事業主が常に確認しておくべきです。私の場合、本社から出せる資金も多くはなかったので、普段からコストカットをしていました。そのため、異様な光景かもしれませんが、経理はおらず、自分がすべてやっていました。とは言え、普段からチェックしていればそこまで労力はかかりません。
③コネのあるベトナム人弁護士
私はベトナム語がわかりません。ですが、実務の連携はすべて現地ベトナム人弁護士とGoogle翻訳を使って行っていました。彼に依頼した理由は、様々な部分でベトナム当局とのコネが強いと感じたからです。何かあった際はすべて対応してくれました。日本人の場合、日系弁護士事務所やコンサルに依頼する場合が多いです。
しかし、圧倒的に差が出るのはコネの部分です。現地ベトナム人弁護士が代表を務める会社と、日本人弁護士が代表で務める会社とでは、「スムーズなやり取り」という部分で大きな差が生まれます。コストも抑えられるのも良い点です。
絶対にやめておくべきこと
①会計処理を後回しにする
「ほぼ何も動かしていないから」と言って、帳簿も手続きもすべて放置していると、精算時に帳簿不備が露呈し、税務調査で指摘を受けたり、追加納税を行うことに繋がります。必ず会計処理は行っておくべきです。
②銀行口座の放置
私の場合、会社の銀行口座は2週に1度は確認していました。アプリで簡単に見れるので、必ず確認する癖をつけておくべきです。銀行からの残高証明が取れず、清算の最後の最後で詰まるケースもあります。
今だから思う:やっておけば良かったこと
事業を1年で閉鎖する決断をした際、後悔はありませんでした。ですが、「やっておけば良かった」と感じたことはありました。
①来る前からもっと現地を知っておく
本社からの「雰囲気」を無視してでも、現地に行って現地調査を徹底的にやっておけば良かったと思います。市場調査や現地調査なしに「いけそう」と思って開始するのと、そうでないのとでは、「自信と迷い」の面で大きな差が生まれます。
特に私の場合、海外任務に就いた日本人は一人だけでした。そのため、何かを考えるときに、「迷い」が生まれました。この迷いは、「準備不足」から来るものだと実感しました。
②(支社長なら)、進出前に本社と徹底したすり合わせをしておく
現地に行ったら、行った人にしかわからないことがたくさんあります。様々な点で計画や方針を変更することは多々あります。ですが、出資する本社側のためにも、現地へ行く前から徹底したすり合わせをやっておくべきです。
例えば、「黒字化までの期間・計画修正ポイント・撤退ライン・権限範囲」などです。海外進出する場合は、これらは特に大事だと思いました。
事業撤退から得られた教訓
「仮説」は実際に動かしてみないと分からない
良かった仮説もダメだった仮説も必ず「強いデータ」になります。ですが、その仮説はやりもせず机上だけの仮説は何の価値もありません。「実行した仮説」だけ「強いデータ」としての価値が生まれます。その「強いデータ」は人生の中でのあらゆる場面に役立ちます。
物事の捉え方は自分次第
撤退したことを「失敗」と捉えるのか、「経験」と取られるのか、で随分と見える景色が変わります。日本は「失敗」から「責任」を追求するような文化が根付いたような気がします。これはこれで、どこか悲しいですね。人生には間違いはありません。「経験」が自分自身を作るような気がします。
最後に:トップの写真は、事業撤退を決めた日に撮ったハノイの空の写真です。